第3章 新しい仲間と新しい敵と…ⅰ
「御意」
広津さんの返事で、中也さんは医務室を出て行った。
『……酷いですよね中也さん、あの人私の気も知らないであんな恰好いい事ばっかりするんですよ』
「女性の前で恰好いいところを見せたいのは、どこの誰でも同じ事。中原君は少し不器用過ぎるところがあるとは思うがね」
中也さんが不器用だと言った広津さんを見ると、困ったような顔をしていた。
『不器用?あんなに私の扱いが上手な中也さんが?』
「私からして見てみれば、相手が蝶ちゃんだからこそだ。…じゃないと君のその頬は、もっと酷いことになっているさ」
中也さんの置いていった保冷剤を私の左頬にあてて、広津さんは私と目線を合わせるようにしゃがむ。
『……中也さんは私の事甘やかしすぎなんですよ』
保冷剤を自分で押さえて言った。
「ふふ、中原君が甘やかすのも無理はないだろう。私だって君のような可愛らしい子には、どうしたって強くはあたれない」
『あ、ダメですよ広津さん?そういう言葉は私、中也さん以外の方からは受け取らないんですから』
「相変わらず好きあっている様だ。久しぶりにこんな様子を見れて嬉しいよ」
『好きあってって…っ、私は前よりも中也さんの事大好きなんで、その辺はお間違えのないように』
広津さんはどうしてこんなに恥ずかしい事をさらりと言えてしまうのだろうか。
人生経験の差?そんな事ないよね?
「それは失礼。だがまあ、中原君の方もそれは同じかと」
『中也さんの方も…?流石広津さんは、私なんかよりよっぽど中也さんの事に詳しいみたい。ちょっと妬けます』
「ははっ、君には勝てないよ。ただ、中原君が君の事をどれだけ好いているかは、私の方が少しよく知っているようだね」
目が優しく笑ってる。
広津さんも昔から私に良くしてくれたんだよなぁ、今考えれば餌付けされて私が懐いたような感じだったと思うけど。
『だって中也さん、私の前じゃ絶対お酒飲んでくれませんもん。広津さん達の前じゃないと話してくれないことっていっぱいあるんでしょう?』
「まあ、否定は出来ないね。しかし蝶ちゃん、彼がお酒を飲むと…大変だよ」
大変だよ、に異様な程の貫禄を漂わせる広津さん。
『い、色々とお察しします…すみません、また大変な時があれば私に連絡して下さい、すぐに中也さん迎えに行くんで』
大変さを伝える広津さんの目は本気だった。