第3章 新しい仲間と新しい敵と…ⅰ
「それにしても、今日俺が遅くまで執務室で仕事してなけりゃどうなってた事かと思うと……肝が冷えるぜ」
『え、中也さん拠点にいたの?』
「当たり前だろ、じゃなけりゃ今頃お前は俺の事覚えてねえよ」
中也さんの言葉に今更な事だがゾッとする。
腕に力が入らなくなって、でも中也さんを離したくなくて。
弱々しくなって今なら私の腕を外せただろうに、中也さんはそのまま私の背中に回した腕に力を入れ、私を離さないでいてくれた。
「覚えていない、というと?」
「ああ…言ってもいいのか蝶?」
『………ダメ、絆創膏男には聞かせちゃダメ』
「けっ、分かったよ。…俺は廊下で待機しときます」
変わらず私の事が嫌いな様子の相手だったが、何となく、少し声の雰囲気が暗かった。
「蝶?何でお前、立原にだけ…」
『ダメなものはダメ、絶対あの人には言っちゃダメ』
絆創膏男が退室してから、中也さんは私に問う。
でもダメだよ。
だって、あの人が悪いわけじゃないんだから。
私の事で、あの人が暗くなる必要なんて、ないんだから。
「そ、そうか……んじゃ話すが、こいつさっき、一人で自分の記憶を弄ろうとしてたんだよ。そこに容量広げた携帯置いてあるし、大方そっちに移し替えて全部忘れようとしてたんじゃねえかと」
自分の腕に力が入る。
もうしないよ、中也さん。
もう絶対にしないから、そんな事。
「…成程、中原君から聞いた蝶ちゃんの話を考えると……やはり立原君の言葉で考えすぎてしまったのだろう。しかし、間に合ったようでよかった、私の事も忘れないでいてくれて」
『広津さん、あの人のせいじゃないから。私が…馬鹿だっただけだから』
「要するに何だ、立原と言い合いしてて、何か言われたんだな。……広津さん、ちょっと本人と話してくるわ。」
本人と話してくる、そう言って私から腕を話す彼。
『中也さん、ダメだよ行っちゃ。私がからかったのにムキになって言い合いしてただけだから…本当にあの人は、何もしてないから』
「おう、分かった分かった。ただ本人に確認取りに行くだけだよ、安心しろ。」
それでも離れようとしない私に、中也さんは呟く。
「お前が好きだっつってくれたこの手が、お前が嫌がる事をすると思うか?」
『……ううん、しない』
「よし、んじゃちょっとだけ待っとけ。しばらくこいつといてやってくれ広津さん」