第3章 新しい仲間と新しい敵と…ⅰ
その瞬間、大きく乾いた音が鳴った。
「はあっ、……はぁ………っ」
それに驚いて目を開けば、何でそんなところにいるのか、目の前には中也さんがいて。
肩を大きく上下させて呼吸していたが、私の目を捕らえる彼の瞳はいつものものではなかった。
この目は、私でも何回かしか見たことのない目だ。
「っの……馬鹿野郎がっ!何しようとしてた!?今、お前っ…何しようとした!!?」
中也さんの怒鳴り声が聞こえて、段々、じわじわと左の頬が熱くなってくるのが分かった。
その熱と、目の前にいる彼の怒りの篭った目を見て、ようやく理解する。
ああそうか、私、中也さんに叩かれたんだ。
「広津さんから来た方がいいかもしれねえって連絡もらって来てみれば……お前が首領に頼まれて隠れて任務に行ってた事くらいなら俺は何にも言わねえ」
中也さんは両手で私の肩を痛いくらいに掴んで目を合わせる。
「けど…お前、何で今自分の頭を弄ろうとなんかしやがったんだ!!昨日、お前が…蝶が言ったんだぞ、お前は俺のもんだって。一緒に、隣にいたいって」
今度は泣きそうな顔になりながら、目で…表情で、声で私に訴えかける。
そんな必死な彼の様子を見て、先程自分がやろうとした事がどれほど恐ろしい事だったかが脳内を駆け巡る。
叩かれた頬が痛い。
けど、それ以上に怖くなった。
覚悟なんて、勇気なんて、中也さんを前にしたら全部崩れていってしまった。
『ぁ、…わ、たしは……っ、分からなくなって、…』
ぼろぼろと溢れ出る涙を手で強く拭いながら、子供のように泣きじゃくる。
『中也さんと一緒に…いたいのに、いちゃだめだって思って……それでっ、離れなきゃって……』
それでも離れたくなくて。
どうしようもなくなって、何もかも放り出して逃げたくなった。
でも結局は、貴方のそばに無条件でいてもいいんだって確かな証拠が欲しかった。
貴方に嫌われたくなかった、離れたくなかった。
私に襲いかかる忌々しい記憶も、それによって苦しいものに変わってしまう中也さんとの思い出も、全部全部、消したくなって。
誰かにちょっと何かを言われたのが引き金になってしまう、どうしようもない子なんです。
笑ってもらえると嬉しい、意地悪されたって好き。
今みたいに怒られたって、それは私を思っての事だから……
『ごめんなさいっ…ごめんなさい、…大好き』