第1章 蝶と白
「でもさ、あの人…芥川さん?は覚えてたみたいじゃん?それに、例えば俺が中也さんだったとして。」
じっとこっちを見つめてくる赤羽君。
なんだこれは。ちょっと恥ずかしいじゃないか。
「突然いなくなった、自分にそれだけ好意を持ってくれてた可愛い女の子の事を、忘れたりなんて絶対出来ないよ。」
赤羽君の瞳が、妙に色っぽく見えた。
てか、可愛い女の子って…
『……そう、ありがとう。でも一応言っとくね?私、そんな事言われたって中也さん以外の人になびいたりしないから。』
顔の温度が高くて説得力に欠けるかもだけど。
「分かってる分かってる。あー、でも、折角仲良くなれたんだし苗字呼びやめない?蝶ちゃん。」
『!…それくらいなら別にいいけど?か、カルマ君?』
「うん、ありがとう。何かあったら俺に相談しなよ、蝶ちゃん。」
___今日からはそれが手前の名前だ。何かあったら俺に言え、蝶。_
瞼の裏に残る、彼の姿。
『__うん、私、蝶って名前大好きなの。勿論苗字もだけどね?』
「そっか。それは良かった!蝶ちゃんの能力にもぴったりだよね、蝶ちゃんの名前。」
『そうなんだ。空間を操る時って、白い蝶が舞ってくるし。』
「それに、真っ白な肌や髪の色、蒼い宝石みたいな瞳にも合ってるしね。」
驚きすぎて、今度は私が彼の方を見つめた。
『本っ当、どこまで察しが良いのよ君。ちょっとだけ、幸せな事も思い出せた。これも分かってて、そう発言するの?』
「いやいや、流石に思い出までは俺にだって分からないよ。でもやっぱり、中也さんは蝶ちゃんのこと、忘れない。」
『そっか。そう、だよね。』
「『名付け親、だし?』」
二人で笑い合う。
こんなに笑ったのも久しぶり。
太宰さんにだって、中也さんの事はあまり話さないようにしてたし。
ゴムが切れて、昔のように下ろされてる、白い…けれども夕日の色を反射して、少し橙に煌めいた自分の髪を見つめる。
___白い肌に白い髪、黒蛋白石みてぇな目、そして蝶の力。
例え手前が死んだって忘れねぇよ、“白石 蝶”は、俺が絶対ぇ忘れねぇ____
「そろそろ帰ろっか。中間テストは本校舎で受けるから、間違えないようにね。」
『うん、バイバイ。』
カルマ君を見送った後、横浜への扉を創り、白い髪をなびかせながら、探偵社へと帰還した。