第21章 親と子
「落ち着いたか?」
『…まだ、です』
「お前それ言って抱き着いときたいだけだろ?…前とは逆で敬語になってっし」
『……中也さん…』
「…おう、何だよ…?」
少し、甘えたような声を出してみた。
今までこんな風にこの人に接したことなんかあったかな…
『蝶…中也さんの娘でいい…?……他の人のこと、考えちゃう…けど…中也さんの「いいよ、それで。大事なことだ」…蝶が勉強できなくなっても、中也さん怒らない?』
「怒らない……俺がそもそもそんなにできねぇしな?」
『……蝶が、弱くても…?役に立たなくっても?』
「怒らねえって…そもそもお前と一緒にいるのはそんなことのためじゃねえんだから。それにお前は、一生俺に護られてりゃいいんだ…あんま強くねえんだからよ」
肩の荷がおりたような気がした。
私は過大評価されることが嫌いだ。
馬鹿にしたように過小評価されることや、舐められることは嫌いだけれど…それでも、私という人を知ってこう言ってくれる存在がいてくれることが、どれだけ私を楽にしてくれることか。
どれだけ、私が頼りやすくなるか…どれだけ、気負わないで済むか。
『…蝶、弱い?』
「いいや?強いぞ…けど、“そんなに”強くないだけって知ってる。……蝶は女の子だからな、男がちゃんと護ってやらねえと」
『………護るなんて、言われたの久しぶり…涙食べちゃう人なんて初めて出会った』
私の瞼に口付けながら、中也は涙を食べていく。
「嫌なもんは全部食ってやるよ、俺が……あ、けどプチトマトくらいはたまには食べろよ?好き嫌いを直せって強要はしねえけど、この世界がプチトマトだけの世界になっちまったらお前地獄だろ?」
『ドライトマトにすればいいだけだもの』
「天才かうちの娘?…蝶、お前で甘えてきたら本当に可愛いなぁ?…もっと早くからこうしてくれててもよかったのに」
『……初、めてこんな安心した…の。…中也さん好き…大好き』
「………なんだよ、照れるじゃねえか。…知ってる」
独りだった私に突如現れた保護者さん。
名付けと育ての親。
私のところに現れたその人は、ママでもパパでも…お母さんでもお父さんでもなくて。
『…?…中也さんって、ママとパパとどっち?』
「お前まだそれ言うか?…どっちもでいいだろ、どっちもで……合わせて“中也さん”だ」
『!…うん…中也さん!』