第21章 親と子
大きな木の枝に降ろされて、そこに中也と並んで座る。
よく見ると校庭がちゃんと視界に入ってくるあたり、あまり遠くには行っていないようだ。
でも、どうしてこんなところに?
『…ねえ中也、なんで……?…な、んでそんな顔…』
落ち込んでる顔…そのくせ私に心配かけないようにって、無理してる顔。
「……俺な、お前がもっとちっさかった頃に…お前の頭の良さに本気で感動してたことがあったろ。…あの時のお前の表情が苦手でよ」
『へ?…私の?』
「こんなことができたところでっつって俯いて、さっきみたいに色々考え込んでて…やれ名付け親だの育ての親だの言っておきながら、少し線引きしてたところはやっぱりあってな」
『……中也は私のこといっぱいいっぱい褒めてくれるよ?』
「それでも、あいつらからしてみりゃやっぱり違和感もあっただろ…なあ、蝶……年のせいもあるかもしれねぇけど…やっぱりまだまだ甘えにくいか?…親だって、思いにくいか?」
言われて何かに触れたような気がして、思わず大きな声をはりあげた。
『そんなことない…!!!』
「!…はは、嬉しいな…そう言われると。……こらこら、折角俺が嬉しがってんのに…なんでそんな泣きながら抱きついてくんだよ」
膝立ちになって、中也に弱々しく抱き着いた。
不安になった…また悲しませたんじゃないかって。
『ちゅ…うや、さんが……いる、のに…蝶、悪い子だからっ…』
「お前は悪い子じゃねえよ…そう思ってんのはお前だけだ」
『違うもん!!…っ、わ、たし…また考えた!!また中也さんが苦手な顔した!!!……ま、た…あの人達のこと…っ』
「そりゃ考えちまいもするだろ、普通だ、普通。…俺はお前が思い詰めるのが苦手だが、それを嫌だとは言ってねぇだろ?嫌って言い方したら語弊があるかもしれねぇけどよ…」
『……中也さん…蝶の事好き?……大事…?』
ごめんなさい、何回も同じこと聞いて。
「勿論、大好きだ…大事だよ、世界で一番に」
『蝶の事、嫌いにならない?……愛してる…?』
何回聞いても不安なの。
嫌な記憶が、つきまとって離れてくれないの。
「嫌いにならない。愛してる」
『……中也、は…?』
「…愛してるぞ、蝶……だから、そんなに泣かないでくれ…謝らないでくれ」
やっと分かった。
なんで私が、中也“さん”って呼ぶのが好きなのか。