第21章 親と子
「白石が嫌がるって……中原さんから褒められて?」
「褒められること自体は別に嫌じゃねえんだろうし、ついつい言いそうになっちまう時もあるがな」
勉強…私にとって勉強とは、いつかの竹林君に言ったように、したくてしていたものじゃあない。
せざるを得ない状況に追い込まれていただけのこと。
中也の手にまた撫でられて、安心しつつもどこか上の空だった。
いろんな世界に渡るという事は、それぞれ無知の状態から丸腰で放り出されてしまうということ…他の世界での常識なんか、全く通用しないことがほとんどなのに。
知識が無ければ…その世界その世界における常識がまずなければ、まともに生きていくことさえままならない。
それに常識があったところで、ただそれだけで生き延びられるような世界など…結局はどこにもないのだから。
自分の力を使って…死ねない私は、それと知識を合わせて生きていかなければならなかった。
自分で進んで得る知識などにはそのような力はほとんどなく…それに、私は学びの機会が与えられなかった人間だから。
初めて死んで、初めて私が名前をつけられてからのこと。
初めて私は、本というものを手に取った。
それから、勉強という言葉も知った。
私が知っていた勉強という“音”は、当時はただのそれでしかなく、意味までは知らないものだったのだ。
『…勉強…できたら、私も…?』
「え……?」
普通に扱ってもらえたかな?
普通に…褒めて欲しいだなんて望まなかったから、せめて。
…私も、娘として見てもらえたのかな……なんて。
「……担任、今日のこの後の予定は?」
「え?ええっと…今日のこの後の予定は、知っての通り暗殺訓練で……それ以外に変わったことは何も」
「ならいい……悪いな、今からこいつサボらせるわ、俺」
「そ、そうですか、それならどうぞごゆっく……そうなんですか!!!?」
殺せんせーの動揺具合で気が付いた。
中也の腕に抱きしめられていることに…何故だか中也が私を浮かせて走っていることに。
『え…、中也…?』
「俺の邪魔したら手前の触手全部まとめて飛ばしてやっから覚悟しとけよ!!」
「ポートマフィアの幹部さん怖いですうううう!!!」
捨て台詞のはずなのにかっこいい…ってそんな場合じゃなかった。
『どこ…行くの?』
「ん〜?…二人で静かに話せる所…山奥の方」