第21章 親と子
『いい香り…紅茶ですか?』
「ああ。中原さんから美味しい茶葉を教えていただいてね…彼は君が教えてくれたものだといってご機嫌そうだったから、飲んでみたら美味しくて」
『中也がそんなことを……よくお話されるんですね?』
少し、意外だった。
中也がそんなことを話す人は、よく話をする人だろうから。
「主に白石さんについての事くらいだけどね…君もどうぞ、猫舌だと聞いたからアイスにしておいたよ」
『えっ、わざわざそんな「いやいや、気にせず飲んでくれたまえ」…で、では遠慮なく…っ』
差し出された紅茶。
浅野さんも飲んでいる…本当に美味しそうにして。
だけど私は気付いてしまった、目の前の人が私に嘘をついてることに。
……仕方がない、悪意があるというわけではないのだろうから…いつもお世話になっているし、何か強い思いがあってのことなんだろう。
この人は、私の正体を知らないから…多分、私が気付いてるってことにも気付いてない。
…今回だけ、貴方の思惑に乗りますよ……何かあったら、その時は容赦しませんが。
アイスティーを口に含むと気分が少しだけふわふわする。
それに合わせて演技を始め、手始めに身体を少しぐらつかせた。
『…ぁ……、れ…っ?』
「どうしたんだい白石さん…どこか具合でも…」
駆け寄ってくる浅野さんのジャケットの裏ポケットに盗聴器を移動させ、そのまま相手の思惑通りの演技をする。
『な、んか…体がだ……る……ッ…』
言いながら、体から力を抜いていく。
浅野さんに支えられたまま、自然に感じさせるように…自然に。
こういう演技が、実は一番難しい。
「……すまないね、白石さん。君にはこのような事をしたくはなかったんだが…少しだけ寝ていてくれ」
私の体をソファーに横にならせて、上からブランケットのようなものをかけてから、浅野さんは部屋から出て行ってしまう。
しっかりとロックをかけてから。
完全に一人になったところでイヤホンを耳につけると、ちゃんと音声が耳に伝わってきた。
「驚かせることになるかな……これであの子も、A組に…」
……成程、何か企んでるな、完全に。
けど浅野さん、動くにはあまりにも情報が不足してるんじゃないかしら…私を相手に“規定量の睡眠薬”くらいのものじゃ、ふらつかせる事もできませんって。
睡眠薬入りの紅茶を一気に全て飲み終えた。
