第21章 親と子
そいつの倒れていた廊下…どうしてお前が、そんなところにいる?
怖かったんじゃなかったのかよ…信じられないんじゃなかったのかよ。
どうしてだ…そんなところにいなかったら、もっと早くに見つけてやれていたはずなのに。
「…大丈夫、命に関わるようなものじゃあない……彼女の体内から、彼女の身体が有害であると認識したものが追い出された結果だろう」
「!!…首、領……蝶は…?……あ、いつ…あんなに怖がって、たくせして……俺の執務室の前で…ッ」
俺が早く戻っていれば。
俺が、もっとお前のことを信じていれば…
あんな冷たい床にお前が身体を倒すことにならなくても済んだのに。
お前が辛い思いをしなくても済んだかもしれないのに。
「落ち着きたまえ、それはタイミングが悪かっただけのことだ…寧ろ見つけたのが君でよかったじゃないか。…で、蝶ちゃんの身体のことだけど………卵子が流れ出ちゃってるね。これ…どういう事か、流石に教えてもらってもいい?」
「!!…他言、しませんか……蝶にも悟らせないでくれますか!?」
「しないよ、約束する。君が誠実な男でいてくれるんだ…上司である僕がそれを裏切るような真似は絶対にしない」
首領に宥められるように言い聞かされ、それから、今日起こったことと、恐らく蝶の身に起こっていたであろう事を、話した。
喉が焼けそうな程に、口にしたくなかった…想像したくもなかった。
まだ、こんなに小さな身体なのに。
こんなにも、綺麗なお前なのに。
それ故に、こういった事態に見舞われる。
「……成程ね…それじゃあ、ここからは僕の予想だけれど……蝶ちゃんの胎内に、恐らくその敵の誰かの精液が入ってしまったのだろう」
「…」
「…出てきているはずだよ、ちゃんと。……ただ、それがいきすぎて…受精していない卵子の方まで出てきちゃってる可能性はあるんだけどね」
考えたくもなかった、そんな事。
それでまた、蝶があれだけ渇望していた卵子が外に出てきてしまっていただなんて事。
…どう、すればいいってんだ……どうしてやれるというんだ、俺が…俺なんかが。
「……今回の仕事に行かせてしまったのは僕だ…君のせいじゃない。それに、まだ卵子自体は…ちゃんと残ってる」
ほんの少しだけだけどね、とモニターを示す首領。
それを見て、また泣きそうになった。
それだけの事に…救われた。
