第21章 親と子
「……そう、それで壊滅は成功…の割には、酷い顔をしているね?中也君」
「…蝶に血を見せてしまいましたから……怖がらせてしまいまして」
「……何でも相談してくれて構わないのだよ?君だって、まだまだ若い男の子なんだ…たまには頼る相手も必要だろう」
この人も相変わらず、よく人を見ている方だ。
そんなにも酷い面をしているのだろうか、自分は。
…まあそれもそうか…蝶を目の前にしてあんなに涙を流した事なんか、四年ぶりのことだろう。
嬉し泣きならどれだけ良かったことだろうか。
「俺は大丈夫ですが…寧ろ蝶の方が。……首領」
「!何だい?」
「…俺、あいつに……どう、接したらいいのか…分からなくなって…」
「……よかったよ、中也君が甘え方を知っている子で。…接し方、か…あの子が君を怖がっているのは…大好きだから故にだろうねぇ?…ほんとは何があったのかは、やっぱり口にはし難いかい」
「…はい……蝶と、約束してますんで」
君は本当に誠実な子だ、と微笑まれて、どこか酷く安心した。
こんなにも蝶に拒まれた事は初めてだったから。
自分に自信なんか、残ってはいなかったから。
自分の力の至らなさが、あいつを傷つける羽目になってしまったから。
そうか、人に肯定されるということは、こんなにも安心することなのか。
「………ありがとう、ございます」
「ん?…もう行くのかい?………蝶ちゃんのところに?」
「…はい。…会ってくれるかは分かりませんが、話くらいは…多分、あいつの方が怖がってるでしょうから」
先ほど首領が言っていた。
俺は甘え方を知っている人間でよかったと。
そうだった、あいつはそれさえ分からないんだ。
今回あいつに手を出した人間が…俺じゃなかったにしても、紛れもなくそれが俺だったのだから。
分からないんだ、何も…俺がいくら本物だと言ったところで、恐怖が拭われるわけじゃあない。
それに、俺が知らないだけで…どこまでされたのかは、分かっていない。
何をされたのかも、知らない。
俺と違って頼り方を知らないあの少女に、早く教えてやらなければならない。
お前を肯定する人間は、ここにいるのだと。
お前がいなければ生きていけない人間がここにいるのだと。
首領の執務室から出て宛もなく走って……走って、走って。
俺が見つけたそいつは、廊下で血を流して倒れていた。
