第21章 親と子
蝶達が消え去って、けれどおさまらない吹雪のせいで彼の足元が凍り始めて、何故だか私は吹雪を消した。
何故だか、立っていることすらも出来なくなった。
……何故だか、あちらに行きたいはずなのに…動けなかった。
「…ち『や…ッ…ぁ…っ』……とりあえず帰ろう…こんな血なまぐせぇ所にお前をおいておきたくない」
『ど、こ…連れてくの…?……貴方、誰…っ?私の名前呼ばないで…その声、嫌い…っ、顔も、手も髪も目も、全部嫌いッ!!全部やだ!!嫌い!!!!』
「……それでもいい。離れてていいから…綺麗なお前をこんな所からとっとと出してやりたい…歩けるか?」
『!!来ないで…!!!き、来たら凍らせ、るんだからッ…それ以上こっちに来た…ら……っ!?』
平然と、彼は歩いてこちらに寄る。
「お前に殺されるんなら、何も文句はねぇよ俺は…元より、生きてて価値のあるような人間じゃあねえんだ。……お前が俺を必要としなくなったんなら、俺は死んだところで悔いは…ねぇからよ」
なんでだろう、あれだけ嫌だって言ったのに、手放せない彼の外套。
これにくるまって、無意識に身を守ろうとしてる私の身体。
おかしいな…なんで?
……本物…?
____何の?
…本物の、あの人…?
____本物だったら何?
自問自答を繰り返すうちに彼は私の前で膝をついて、私と目の高さを合わせてきた。
『ぁ…っ、……や、だ…ッ……、…やめ…「俺がお前に今、何かしてるか?」!!!…あ…あ……ッ』
してないし、されてない。
声を出しても、抵抗しても、怒られないし痛くもされない。
なんで?
油断させるため?
それでまた私のこと、騙すの?
また、私にああいうこと、するの?
「…目の前にいるのに他人行儀な事ばっかり言うなよ……俺の名前は?」
『!!…そ、やって……またッ…「俺がお前を騙すような事があれば、その場で俺を殺してくれて構わない」!?そんな事出来るわけ!!!…っ、あ、れ…』
なんで出来ないの?
簡単じゃない、こんなに無抵抗な人間を相手に……あれ、なんで私、この人が無抵抗だって分かりきったようなこと考えてるんだろ。
「……蝶」
呼ばれて跳ねる肩。
この声、嫌い…怖い……のに、嫌いじゃない、ような。
「…………お前は穢くなんかねぇぞ…綺麗なままだ、全部…何もかも」
言われて、撫でられて、涙が溢れた。