第21章 親と子
しかしそこから私の手は動かなくなる…否、動かせなくなる。
「…蝶、やめろ……今すぐその蝶を消せ」
パシ、と掴まれる腕。
紡がれる言葉…いつの事だったか、渇望していた声。
『……あ、れ…なんで、動かな……っ、?……な、んで…、なん…で……ッ?』
簡単なのに、蝶に指示を出すことくらい。
簡単なはずなのに…今掴んでいる私の腕を、そのまま折ってしまうことくらい。
なんで痛くしないの、なんで無理矢理止めないの。
『なんで…力づくで止めない、の…』
「……お前の意思を尊重したいと思ってな…俺は、お前がどうしてもこいつらを殺したいのなら………止めはしねぇ…お前は、どうする?」
『ど、うするって……何…っ?貴方、誰…?誰なのよ、さっきから…なんで痛くしないの!?なんで選択肢なんか与えてくるの!!?誰なのよ…っ、誰な……ッ!!?』
ふわりと、大きな暖かい布に包まれる身体。
そこで気付いた、ああ、私服着てなかったんだって。
頭をポンポン、と柔らかく撫でて離れられて、気が付いた。
あの手…私の大好きな手。
離れられて、振り向いて気が付いた。
その人が飛ばす殺気の量に……私が集めていた人間が、全員一番下の階まで沈められていたことに。
下の階からは、血の匂いがしていたことに。
「……悪いな、選択肢を与えたのはいいが…結局俺がやっちまった。…蝶」
『………誰ですか、貴方…っ…だれ、なんですか…!』
「分かってんだろ…自分に嘘ついてんじゃねぇよ………こっちに来ても大丈夫、お前の嫌がるようなことはしねぇから…怖がるような事も、何もしない」
『う、そ…そうやって油断させて……また……ッ、騙されないんだから…!どうせまたそうやって…っ、え…?なん、で…』
扉を作って開いてみても、繋がった先はこの場所で。
目の前にいるのは、その人で。
おかしいな、私はどこか別の場所に移ろうとしただけだったはずなのに。
おかしいな…さっきもこれで騙されたはずなのに。
「…俺が怖いか、蝶」
『!?……な、にして…ッ』
上着もベストもタイも外して、帽子もチョーカーも……手袋も外して、靴を脱いで近づいてくる。
ナイフも捨てて、歩いてくる。
『来ないで…っ、上着、着てよ…ここ、寒いんだよ…!?ダメ、貴方が死んじゃ「お前の方が寒いだろ」…!!?』
「…お前が来るまで俺は待つぞ」