第21章 親と子
「蝶、怒ってねえからとっととこっち来いよ」
『……私中也さんに何てことばっかり言ってたんだろ…もうやだ埋めて、そのまま殺してもうやだ死にたい』
「寧ろそんくらいイライラぶつけてくれなきゃこっちが心配なんだよ思春期野郎が…手前俺に他の女と一緒にいさせる気か?ああ?こっち来ねぇなら俺今日一人で寝るぞお前?」
『!!…え……中也さ…っ』
「さん付けするやつは知りません……んじゃ、おやすみ。早く寝てくれるって信じてっからな」
ひらひらと手を振って、中也は寝室へ入っていく。
流石に即熟睡とまではいかないのかいびきまでは聞こえてこないのだけれど、それでもこんな事は普通ない。
一人で寝るなんて言われること、普通…ない。
少ししてから寝室を覗きに行くと本当に中也はもう布団に入っていて、寝息を立てていて…
普段ならそれが演技なのかどうかなんて分かるのに、それよりも今は中也に突き放されたような言葉が頭から離れない。
それにこんな状況になる事は本当に普通はない事で、別の意味でも問題はあった。
中也がベッドに入ってしまっているから、寝室の電気はなんとなく付けにくい…そして普段なら付いているはずのベッドライトまでもがついていない。
そんな状況が分かったのは少し遅れてのことだった。
『……中也さ………ッ!!?』
当然の事ながら、いつものようにリビングの電気を消して足を踏み出した。
しかしそこに光はなく、あるのはただの暗い空間。
冷静に考えればどの辺に何があったかなど容易くわかるもの。
しかし冷静になれなくなるのがこの状況……そしてすぐそこにいるはずの中也の表情さえ、今は見えない。
腰を抜かして崩れ落ちるもどうすればいいのか、どういう状況なのかもまるで理解が出来なくて、冷や汗ばっかり流れてくる。
呼吸も短くなって、段々息が吸えなくなってきて、意識が朦朧としてきたところで灯りがついた。
「蝶!!…おまっ、……なんで電気消して…!!?」
落ち着け落ち着けと過呼吸になりかけているところで背中を擦りながら、中也が私を包み込んだ。
『だ、ッ……ちゅやさっ、が……ッ……はっ、………寝、るって……っ』
「あああ俺が冷たくしちまったからな!!……っ、もっと早くに気付いてやれればよかった…ほら、もう暗くねぇぞ…」
『…暗くなくても中也がいな、いの……はやだ…っ』