第21章 親と子
何がいけないのかは分かる。
馬鹿じゃないし、疎いわけでもないから。
けれど、どう答えるべきなのかが分かるだけで、“どうして”なのかはよく分からない。
だから多分、答えるべきではない。
『…分かんない、です』
「……悪い、また変に色々考えさせたな。…ただ、わかって欲しいんだよもう少し…お前は俺のもんでもあるんだろ?」
『!…は、ぃ』
後ろから腕を回して抱きしめられ、それに肩の力を抜いていく。
あ、こんなに怖がってたんだ私…怒ってるなんてきいただけで、震えちゃうくらいには。
「俺が徹夜ばっかりしてたら、お前も無理矢理仕事を手伝ってきたこともあっただろうが…それと同じだ。…ちゃんと夜は寝ててくれ、お前がしんどいのは俺も辛い」
『…しんどくない、私』
「阿呆、仕事中にそれで怪我でもしたらどうすんだよ…………お前が俺に色々と遠慮する時も、同じこと考えてんだろ」
『あ……う、ん…?』
言われてみれば。
腑に落ちた…そっか、それと同じか。
「…今日もまだ続けるつもりなら、俺が探偵社にクレーム入れんぞ?対応する奴の事も考えてやれよ」
『それは…大変そう……』
ぼんやりと思い浮かんだ光景に苦笑した。
しかしそれもつかの間のことで、次に中也が声を発するのとともに、私の心中は穏やかではなくなった。
「……あの女医や谷崎の妹を指名してやってもいいんだぜ?それからみっちり、お前が帰ってくるまで二人で話し続けてやっても」
『…殺されたいんですか?』
「それが嫌ならちゃんと寝ろ」
『……喧嘩売ってる?』
一日の中で、私よりも長い間ずっと、他の人と話しててもいいだなんて思ってるの?
わざわざ指名してまで、二人でずっと…それも嫌ならやめておけだなんて言い方。
「いいや?妬かせたくなっただけ…そう怒んなって」
『…あっそ』
「……いつもよりイライラしてんじゃねぇか…思春期も辛ぇなぁ?」
『うるさい、です…』
反抗しようと身じろいでも、相手は大人どころか中也である。
単純な力比べじゃ勝てっこない。
しかし、それにしても言われるように、どうもイライラがおさまらない。
「ぶつけてもいいんだぞ、辛いだろ…無理矢理押さえ込もうとするな。俺に甘えるもんだと思ってなんでも言っちまえばいいんだから」
『…ほ、かの人とばっか………やだ…』
情けない声しか出なかった。