第1章 蝶と白
____懐かしい夢を見た。
ここ最近……いや、ずっとか。
数年間、何か夢を見たかと思えば彼のことばかりを思い返している。
目が覚めても、彼の夢を見た日には、暫く起き上がる気にもなれない。
彼__私の、大好きだった……
『中也さん、』
ポツリと零しただけのつもりだった。
「まーた中也の夢を見たのかい?」
まさかの声に驚き、勢いよく起き上がる。
そして、声の主がいるであろう方向に目を向けると、
『…なんでここにいるんですか、太宰さん?私、貴方を招き入れた覚えがないのですけれど。』
「やだなぁ〜!そんなの、合鍵を使ったに決まってるじゃないか!」
案の定、太宰さんこと、太宰治が楽しそうに私の部屋でくつろいでいた。
『だとは思いましたけど。…ねえ、太宰さん。これ、私をポートマフィアと接触させないための監視みたいなものなんですよね?』
そう、私の周りには、いつも太宰さんがついて回ってくる。
私が元ポートマフィアだという事を知っているのは、社長と太宰さんただ二人。
『別に今更、私を迎え入れてくれた探偵社を裏切るつもりなんてないけど。……それでも、私は、っ…』
あの人に、会いたい。
その言葉を紡ぐ前に、太宰さんに頭を撫でられる。
「ごめん。本当は私も会わせてあげたいんだよ。」
分かってる。
私のために一番いい方法をとろうとしてくれてることなんて。
『………なーんて。今更ポートマフィアには行きませんよ!ましてや中也さんは任務中でもうずっと横浜にいないみたいだし、それに…事務所に行く支度するんで、外に出てもらっててもいいですか?』
先程までとは態度が一変した私を見るなり、少し驚いた様子の太宰さんだったが、すぐに笑顔を見せ、部屋から出てくれた。
そういえば、今日からは着るものが変わるのだった。
それを思い出し、普段来ている服とは違う、真新しいその服を見にまとう。
『よし!こんなもんかな。…早く行こ、太宰さん待たせてるし。』
一人になると、またネガティブになる。
嫌な癖だ。
早く太宰さんの所に行って、探偵社……そして新しい仕事先へ行こう。
……そうすれば、何も考え込まなくても良くなるから。