第20章 家族というもの
「呼吸荒れてる…深呼吸くらいしろよ」
『…ッ、は……無…っ……』
「………今の俺が、怖いか?」
『!!!…怖、くな……ぃ』
問い詰められるような姿勢で。
どう考えても怖い以外の選択肢なんかあるわけないのに、違うって事だけは分かってる。
中也が怖いんじゃない。
そうじゃなくて…私は…
「…なんで怖くない?ゆっくりでいいから言ってみろ…ちゃんと言えたら怒らねえから」
『あ、っ……違、くて…中也さん、より…中也さんに捨てられるの、嫌で………けど中也さんはそんな事しな……い、はず…なのに………あ、れッ…?…何言ってるんだろ私、今一緒にいたくないって言われたばっかで……』
「ちゃんと質問思い出せよ、頭良いんだから…それに、なんで俺が手前の事を捨てねえ男だって思う?何を根拠にそう思う」
『……中也…さ、んは…私のこと、捨てれないから……私が嫌がること、できない人…だから』
小さく言葉を紡いでいくと、彼は私の伏せきった顔に下から顔を近づけて、私は合わせるのが怖いのに、目を合わせようと私を覗き込んでくる。
それにぎゅっと目を瞑ると、彼は少し声色を元に戻してまた言った。
「その“私”って、誰だ?零の事か?まあ、俺はあいつが相手だったとしても酷いことはできねぇ男だろうが…生憎俺にはそいつよりも惚れ込んじまった女がいるはずなんだよ………もう一度だけ聞いてやる、手前は…“お前”は、誰だ」
『……ッ、…し…ら、いし……ちよ、です…』
「…そうだな、俺が一生手放したくない唯一の女だ…少し他よりも頼りになる十五のただの子供で…零なんか差し置いて、俺が世界で一番愛してる女だ」
ぽん、ぽん、と、ごめんなと言うように抱きしめて、撫でられて。
大丈夫だって、お前を捨てたりなんかしないって、腕で語ってくれる。
そういうことをされるから、からだに力が入らなくなるのに。
そういうことをするから、我慢してた涙腺が緩みきっちゃうのに。
『ッ、や、だぁっ…嫌だ…っ、どっかいっちゃうのやだぁ…!!』
「…ちゃんといるさ、また寂しくなることがあるかもしれねえけど…ちゃんと俺がお前の居場所になっててやるから」
『置いてかれるのやぁッ…離れるのも…っ、私何も悪いことしてないもんっ、何も…!!』
なんで私だけ…なんで。
体質だって、世間からの評価だって。
私じゃないのにって、消えない
