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第20章 家族というもの


「久しぶりにデレてるのに抱きつかせてはくれないのかい蝶ちゃん!」

『太宰さんのにおいに敏感だからあの人…』

「しかももうお兄ちゃん呼びじゃなくなってる!?」

扉から急いで出てきたのは太宰さんの真上。
そう、真上だ。

そのまま重力に逆らわずして太宰さんの上に馬乗りになるように着地したのだけれど、太宰さんはこの調子…まあ私もこの人もそれくらいの間柄ではあるからいいのかもしれないけれど。
……もうちょっとくらい嫌がらない?普通。

「蝶ちゃんいきなり来るからびっくりしたよ…てっきり国木田さんや敦くんと一緒にいるのかと」

『…多分、私はあの二人と一緒にいない方がいいから』

「え……?」

事務所にいた谷崎さんにそう返すと、太宰さんがむくりと起き上がる。

「…蝶ちゃん、君、誰に何を言われたの?」

『別に“いつものこと”だよ』

「成程……よく私の元に来てくれたね」

前ならすぐに一人でどこかに行っちゃってたのに。
そんな風に私は受け止める。

本当の事だから。

いつものことという言い回しに谷崎さんはよく分かっていないような反応を見せるけれど、太宰さんならもう粗方察しはついているのだろう。

「いいよ、代わりに国木田君に全部お仕事やらせよう!…彼の友は、悪い人ではないのだけれどね?事情を話せばわかってくれるだろうとも思うけど…」

『……そこまでしなくていい』

俯いて、考える。
頭の中にいらない考えばかりが浮かぶから。

自分の気持ちをどこへやったらいいのか分からなくて、それでどうにもできなくて。

泣くほどの事じゃないし、慣れてるものだといえばそうだし。

だけど、別れたばかりだからこそ思う。
……だめだ、私あの人のせいでだいぶ耐性なくなっちゃった。

なんで安心させるようなことばっかり…言うだけ言って帰っちゃうのよ。
なんで私も、こんなに意地ばっかり張ってんのよ。

なんで、住む場所が離れただけでこんなに意識させられるのよ。

『…………トウェインさんが…あんな……だから…』

「…うん」

『それで、慣れてて…なんか変、私……中也もいる、のに…』

「おかしくないよ、全然……寂しいものは寂しいんだから。特に、自分をそれだけ好きでいてくれた人と離れるのは…君が無茶をしたりいなくなったりした時の私や周りの気持ちも、それだよ」

『……なんで私…』
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