第20章 家族というもの
こんな身体なんだろう。
中也がいてくれるからそれでいい。
それだけでも満足するべき事…むしろありがたすぎること。
なのに、寂しさばかりが募ってきて。
挙句の果てには私の立場もはっきりさせられて。
『…太宰さん、私……』
「……なあに?…何言っても怒らないから、話してみて」
中也の口癖。
もっと言うと、織田作の。
私はそう言ってもらわなきゃ心配だから。
『……私…ここにいていいの、かな…っ』
「!?…蝶ちゃん、何を…」
谷崎さんの耳にも聞こえていたらしい。
それでも私は分からない…何が正しいのか。
自分がどうしたいのかも。
「…蝶ちゃん、あまりそういうことはね?難しく考えすぎない方が時にはいいこともあるんだよ…君はどうしたい?何がしたい…どう生きたい?」
『……分からない…皆に恵まれてるから…それ以上、分からない』
「じゃあ考える方向を変えてみよっか?……蝶ちゃんは、“何が嫌”?」
『…!!』
そんな風に自分でなんて、考えようとも思わなかった。
言われて今溢れてくることなんていっぱいある…そう、いっぱい。
「まず、探偵社に視点をおいてみよう…何が嫌?何がしたくない?」
『…離れたくない…お別れ、したくない』
お別れと言えば、谷崎さんもこちらに寄ってきて腰を屈めた。
「……それなら一緒にいればいいじゃないか、蝶ちゃん?…なんでそんなに悩んじゃうの?」
さらりと髪に谷崎さんの指が通されて、またこみ上げる。
『だ、って…嫌…なの……私、ろくでもないことばっかりしてきて…ろくでもない身体で、変な生き方ばっかり…して……探偵社なんか、名乗ってていいのかなって』
ピタリと止まる手。
しかしそれと同時に、今私の目の前にいる彼のことを忘れていた。
『あ……や、っぱり今の訂正し「しなくていいよ、蝶ちゃん」…でも……』
「いいから。…結論から言おう、この私がここにいる限り、君が名乗っていけない理由などどこにもない………けど一つ問題があるね。蝶ちゃん、今の答え方は…“何が嫌か”、だよ?」
『!!』
優しい声色で言い聞かされて、気が付く。
私は探偵社と名乗る事を嫌がってはいない、寧ろこんなに素敵な人達に囲まれた職場で、誇りに思えるほどの行為である。
嫌なこと…嫌なこと、なら。
『…零、って…呼び名……ッ、嫌い……っ』
