第20章 家族というもの
そういえば、お兄さんしてる時の芥川さん…龍之介さんって、あんまり見ないよなぁ。
特別優しくなるとかはないのだけれど、何となく雰囲気や物腰が柔らかくなって…あんまり見ない割にはリアルに思い浮かぶなあ。
考えてみれば、私に変に甘いよなあの人も。
あ、それか原因。
『…』
何となく携帯を耳に当てて、普段であれば中々自分からかけることなどないに等しい人物へコールする。
すると、ワンコールするまでも無く、秒の速さでその人は私の電話に出た。
「やっほ〜蝶ちゃん!!!こんな時間にどうしたんだい珍しいじゃないか!♪治お兄さんになんっっっでも聞いてごらん!!!♡」
『後で甘えに行ってもいい?“治お兄ちゃん”』
「うんうん!!君からのお願いならお兄さんなんでも…………え…?待って、今何て…」
許可だけとってすぐに切った。
我ながらとんだ迷惑だろうが…なんとなく、今は色んなものに嫉妬してて。
私だって…私にだって。
ちゃんと分かってくれる人がいて。
けれど、真っ先に思い浮かぶその人の元にはこういう時に行けなくて。
『立原ー!!!ケーキたかりに来た♪』
「どぅわっっ!!?いっきなり来やがったなおまッ…まあいい、いくつかあるし、丁度余ったらお前に食わせようと思ってたぶんだ。やるよ」
立原の執務室に入ると漂ってきた甘いにおい。
気前よく紅茶まで出してくれて、それを飲んで一つ。
『……誰に教えてもらったの?この淹れ方』
「あ?淹れ方も何も、説明に従って…な、なんだよ?」
『………本当は?…ねえ、準備が良すぎないかしら?食器だって入ってきた瞬間から二人分あったし……これ、立原が一人で淹れた紅茶じゃないでしょ?』
突けば顔をうぐっ、と顰める立原。
ああ、成程…グルだったわけだ。
さすが銀さん、気が利きすぎてる。
『…中也に何か言った?』
「い、いや、そこは……銀の奴から、本人が会いたがらねえ限りは会わせねえようにとしか…」
『……銀さんって本当に凄いなぁ…立原は馬鹿なのに』
「どういう意味だてめぇこら!?」
ほらそういうところ。
なんて言い返してケラケラ笑う。
「ああもう……分かったけどよ、お前…あんまりまた溜め込むなよ?一人で」
ああ、そっか、面白いんだこの人は。
笑わせてくれて、励ましてくれるんだ。
馬鹿だから、不器用なことも出来ないんだ。
