第20章 家族というもの
____好きな心地。
私が好きになった心地。
『…ちゅうやさ……』
「!…蝶?」
『ん…、っ?』
名前を呼ばれて、閉じた瞼の先に貴方がいるのだと、触れられている頭が認識した。
それにうっすらと目を開けると、心配したような顔をして覗き込む中也の顔がそこにある。
「目、覚めたか?お前が気失ったって聞いて…来てみたら、すげえ魘されてたから」
『へ…?……魘さ…!』
初期の頃の研究所での生活…そのせいだ。
だとすると夢だったのか…そっか、中也がついててくれたんだ。
それであんな出会ってまもない頃のこと…
「……まだ、千葉や岡島には何も話してねえ。安心しろ、お前の意思を確認するまでそこには何も言わねえから…前原にも口止めしてる」
『口止…あ……』
思い出した、何が怖かったのか。
何が耐えられなくて何も考えられなくなったのか。
「今ここには俺しかいない、何話しても大丈夫だ……怖かったな」
『!!…ん……うん…ッ』
「一番人に見せたくねえもん見られちまったんだ、そりゃ…お前には特に酷なもんだったろ」
頑張ったな、とか、怖かったな、とかもう大丈夫だぞ、とか色々な励ましをしてくれる中也の腕。
抱きしめられると酷く安心する。
ちゃんと、ここだけは私を裏切らない場所だから。
他に居場所がなくなったとしても、ここだけはきっと私についていてくれるから。
「……多分あいつら、皆受け入れてくれると思うぞ。お前のこと」
『…や、だ……』
「…そうか。じゃ、まだ待っててもらおうあいつらには……お前が怖がっちまうことだっていうことだけは、よく分かってもらえただろうから……っ?…はは、どうしたよ。えらく今日はまた甘えたがってんじゃねえか」
私の頬に触れていた中也の手にこちらから擦りつくと、中也は困ったように笑って私の頬に優しく触れてくれた。
『中也さんの…手、好き……』
「また言ってる…そんな物好きお前くらいだよ本当………」
『ッ、ぁ…ん……っ』
ツゥ、と唇を指でなぞられて、そのままそこに触れるだけの口付けが落とされる。
それからまた安心しろというように包み込まれて、撫でられて。
「……は、ッ…泣くなって、俺が無理矢理したみたいになんだろうが?」
『…嬉し、泣き』
「なら結構…」
頬にまたされるのと一緒に、涙も全部吸いとられた。