第1章 蝶と白
あれから、本日最後の授業が終了し、放課となった。
はず、なのだが、何故か数人単位で固まって、何やら不安そうな顔で話している皆。
とりあえず、今のところ一番気心の知れている赤羽君に聞いてみる。
『ねえ、これ、皆どうしたの?やっぱり、私の事で何か不安にさせちゃったとか?』
「いや、それはないよ。しかも、そんな事とは全然違う事に、みんなは今必死だからね。」
必死?そう聞くと、困ったような笑みを浮かべながら話してくれた。
『へぇ、テストで全員50位以内に入らないと殺せんせー出ていっちゃうんだ?』
なにやら、明日の中間テストにおいて、そのような制約が成されてしまったらしい。
まあ、出ていくもなにも、私がいる限り絶対逃がしたりはしないんだけどね。
それよりももっと重要な事がある。
『ねえ赤羽君?私、明日が中間テストって、今初めて聞いたんだけど?だから先生の授業は、先生の分身で個別指導だったの?』
私に着いてた先生の分身は、英語のハチマキを巻いていた。
「うん、本っ当に大変な時期に転入してきたよねぇ、白石さん。」
哀れみの目で見てくる彼に、こちらも苦笑を返した。
「あれ?やっぱアンタら、デキてんの?」
突然降り掛かってきた明るい言葉に振り返ると、中村さんを中心として、女の子たちが集まってきていた。
赤羽君に至っては、好物なはずのイチゴ煮オレを吹き出し、むせ返っている。
『デキてるって?』
私の返答にびっくりする女子達と赤羽君。
「要するに、白石さんと赤羽君は付き合ってるのかって事だよ!」
丁寧な説明をしてくれる茅野ちゃん。
って、
『私と赤羽君が?そんなわけないでしょう、なんで私がこんな悪魔と、』
「悪魔かぁ、確かに天使ではないけど、ちょっと傷ついたなぁ…あ、でも、ちゅ『あ〜〜〜!!!』…?」
嬉しそうな顔でなんとも楽しげに私を見てくる赤羽君。
『悪魔、悪魔ぁあ!』
「これで付き合ってないとか。…あれ、でもカルマのくちぶりからしてみて、“ちゅー”でもしたの?」
ちゅーという発音に妙に敏感な今日の私の心配は、これで収まった。
そして中村さんに対して心底嫌そうな顔を向ける。
『なんで私がこんなのとき、キスとかしなくちゃならないんですか。』
私のファーストは中也さんとする為にとってあるんだから。