第1章 蝶と白
小さく紡いだその言葉は全員に伝わっていたようで、笑顔の肯定を返してくれた。
そして、私の元へやってきてニヤニヤしだす殺せんせー。
「あれ?殺せんせー、人をおちょくる時の顔してる…」
何やらこの先生は、感情によって顔の色が変わるようだ。
『何ですか?先生。』
「いやはや、君達の行方が気になってしまって、体育の時間、先生も行ってみたんですよ。横浜に。」
「『なっ…!!?』」
横浜って!
つまりは、全部見られてたって事!?
「それで白石さん、…中也さんとは、どのような関係なんですか?」
私の耳元でヒソヒソと話されたこの言葉。
本日何回目の中也さんだと思ってるのよ。
流石にもう私だって慣れて___
「恋人、…いや、内緒、にしている好きな人の事ですかねぇ?」
ガタガタガタッ
「し、白石さん!大丈夫!?」
「殺せんせー!白石さんに何言ったの!?」
だめだ、そこまでバレてた。
ニヤニヤと余裕そうな顔を浮かべる相手に悔しさが込み上げてくるが、唐突すぎるその話に、恥ずかしさで腰が抜けてしまった。
『な、なななな、なんでそんな事、!!!?』
顔熱い。顔どころか、耳元体も、全部が熱い。
こんな事で動揺してしまう自分に更に恥ずかしくなって、目尻に涙まで溜まってくるわ、体が震えるわの事態になる。
「白石さん、どーしたのー?顔、真っ赤だけど?」
携帯でシャッター音を鳴らしながら撮影してくる鬼のような赤羽君を、今度は思いっきり睨みつけた。
『分かってるくせに、!!!』
絶対分かってやってるよね?
今度何か仕返ししてやる。
これ以上赤羽君の携帯に撮影されるものかという一心で、まだ立つ力が入らない私は、座ったまま膝で顔を隠して、全身の熱が冷えるまで耐えることにした。
『仕返ししてやる、絶対仕返ししてやる、!』
初めて見る、ただの小さな子供のような蝶を見て、クラスの面々は口を開けていることしか出来なかった。