第19章 繋がり
「姐さん……こいつこういうの苦手だからやめてくれって、昨日何回も言いましたよね俺」
「う、うむ…しかしまさかここまでのものとは……だ、大丈夫じゃぞ?其方の思うておるほど中也はやわな男では…」
『………中也さん、痛いの…嫌…』
「「…」」
中也さんの上着にしがみついて、なんとか震える身体を立たせている。
血…やっぱり、嫌い。
私を散々苦しめてきた血が…それを流している中也さんの身体が傷つくのが、こんな小さな事でも耐えられない。
「お主…そんなに中也の事が好きなんじゃな?」
『!!…?』
「誰かの怪我のために泣けるような子はなかなかおらぬ…大事にしてやれよ?中也」
まただ。
昨日も太宰さんがそう言っていた…なんで?
私の事をどうこう言うより、中也さんの身体の方が大事じゃないの…?
「……心配せずともそのつもりですって…大丈夫だよ、こんなもんただのかすり傷だ。そのへんの壁に頭打ち付けたようなもんだから…その……まあ、ありがとう」
ぽん、と頭に手を乗せられて、また中也さんは私にありがとうと口にした。
『!…痛く、ない……?』
「おう、蝶が心配してくれてんの見てたら全部どっか飛んでっちまったよ」
『……ん…』
手をギュ、と更に握って、顔を俯かせた。
傷…治す力はもっているんだ。
いつ、言おう…いつ、打ち明けよう。
この人の身体を癒す力は持っているのに、使う勇気のない自分に腹が立つ。
「…俺のためにそんなに悩んでくれるやつもお前くらいなもんだよ……姐さん、俺暫く例の件で森さんに話があるから、こいつ頼むわ」
くれぐれも怖がらせるようなことしないでくれよ
釘を刺すようにそう言ってから、中也さんの手が離れていく。
それに思わず顔を上げると、またすぐに戻るから、と苦笑された。
引き止めちゃダメなんだと察して手を離し、そのまま中也さんは出て行った。
手をかけさせない子にならなくちゃ。
ちゃんと、こんどはいい子にならなくちゃ。
「……本当に優しい女子じゃのう…我慢せずとも、少しくらい我儘を言ってもよいのじゃぞ?誰だって、一番信頼している相手に離れられるのは怖いと思うものじゃ…一緒にいたいと願ったところで、誰も嫌には思わぬ」
『………中也さんには…これ以上迷惑かけたくないです』
嫌われたくないだけ。
ただ、それに必死なだけ。