第19章 繋がり
彼の口から紡がれた、“名前”という単語に目を丸くした。
寝ぼけかけているけれど、それでもその衝撃は大きいものだ。
『な…ま、え…?』
「ずっとお前ってら呼び続けんのもあれだろ?俺が名付け親になっちまっていいのかは分からねえけど…センス悪いかもしれねえから嫌なら言ってくれ。ただ、ありきたりだろうがお前っぽいなと…」
もしかして、ずっと考えてくれてた?
しかもさっきこの人、私の名前…苗字、白石って言った…?
『…もう一回……』
「!…白石、蝶……白い肌に白い髪…黒蛋白石みてぇな目、そして蝶の力。……単純だって思われるかもしれねえけど、それなら絶対忘れねえし…何より、あの能力は心底綺麗なもんだったと思う」
『………それ。…それ、にする』
白石…そこには一瞬動揺してしまったけれど。
それでもいいや……寧ろその方がいいや。
私が私でいられる名前…前までの私を、白石澪を捨てずにいられる、いい名前。
こんなに素敵なことって…こんなに素敵な偶然って無い。
誰かが言ったように、きっとこれは必然的なこと。
「本当か!?…いいのか?」
『…それがいい』
少し布団から手を出して中也さんの方に伸ばしてみると、また指に触れて軽く絡めてくれた。
それに余計に安心して、胸の奥からまたあたたかいものが溢れてくる。
「……今日からそれが手前の名前だ。何かあったら俺に言え…蝶」
『…はい……ッ、中也さん』
けど、手前はやっぱり怖いです、と素直に付け足すと、即座にあたふたする中也さん。
名前、付けてもらえるなんて。
本当に考えてくれちゃうなんて、思ってもみなかった。
「わ、悪い…癖なんだよ、出来るだけ言わねえように……ってなんでまた泣く!?」
『え…あっ………えへへ…』
「えへへ…って………今みてぇに笑ってる方がいいぞ、お前」
『…?』
もう片方の手で涙を優しく拭われると、中也さんからそう言われながら笑われた。
中也さんも、こっちの方がいいと思うなぁ…なんて。
「やっぱり可愛らしいところあるじゃねえか…明日色々買いに行くから、今日はちゃんと睡眠取れよ?」
『中也さんも…』
「おう、蝶が寝たらとっとと仕事片付けてこっち来て寝るわ」
『……“蝶”、寝ます…すぐ寝ます……』
「…意外と単純なのな、お前」
また少しはにかんでから、眠気に従って瞼を閉じた。