第19章 繋がり
そしてあの日…今から約八年前の事。
帽子を被った青年が、私を攫いにやって来た。
久々に小さな身体に戻った動揺と、生身で直に触れ合う人の体温に慣れていなくて、研究所から脱出するのも躊躇うほどに私は警戒していたのだ。
「悪く思うなよ…立てるか?」
『ッ?立て…?』
「……それじゃあ背負って…っ、!」
指先に触れた彼の指。
反射的にそれを手で払いのけ、動悸が収まらない胸を押さえて彼の見開かれた目を見て気が付いた。
『!!ごめんなさッ……ごめ、なさっ…』
「てめ……、約束する。俺は手前に手を出さねえ…勝手に拠点に連れ帰って、勝手に衣食住を提供し、勝手に傍において生きさせる。命令じゃあねえ…俺の勝手だ。……いいか?」
初めてだった。
この世界で、私に許可を求めた人は。
何も分からなくなってしまいそうだった私に、意思を持たせようとしてくれた人は。
私の声を聞き入れようとしてくれた人は。
頭で考えるよりも、声にするよりも先に、私はその人の手に恐る恐る触れていた。
それからその手があたたかくて優しい手だとどこかで感じ取ったのかなんなのか、その安心感に浸るようにスル、と指を絡めてみたりなんかして。
「!…おい……?」
『?…!!?あ…っ、ごめんなさッ……〜〜〜!!?』
咄嗟に動揺して手を離そうとすれば青年…確か中原中也さんといっただろうか。
今度は彼の方から私の方に指を絡めてきて、それから歯を見せてはにかむように微笑んだ。
「謝んなって…可愛らしい所、あるじゃねえか。とっとと出て行こうこんな所……餓鬼が耐えられるような場所じゃねえ」
『え…ッ……あ、のっ………どこに…?』
「横浜。ポートマフィアの拠点にだ…ああ、別に悪いようにはしねえから安心してついてこい、マフィアっつっても手前に手を出すわけじゃあない」
再び聞いたマフィアという単語に目を丸くして、私が標的などではないということを読み取ってまたどこか心が落ち着いた。
マフィア…好きな響きだ。
殺しや抗争を専門とする生業ではあるが、嫌いじゃなかった…寧ろ、ああいう関係性は好きだった。
「だからそこに連れ帰って、とりあえず手前に不自由ねえような生活を……………の前にまずその格好はなんとかしねえといけねえな」
『格好…?……あ…………ダメ、ですか…?』
「女が全裸はダメだろ普通に」