第19章 繋がり
____反物質、またそのエネルギーを発見したとして、あいつ…否、ある一人の天才科学者が名誉ある賞を受賞した。
それはこの世界において価値のあることであり、誇りあるものであるはずだった。
しかし世間は知らない、その反物質が、いったい“何”によって発見出来たのかを。
私が世界を移動したその時、体はまた齢六歳の器に戻り、新たな体へと作り替えられた。
私は特別な扉を通ってこの世界にやって来た…そう、この世界に。
あの男……柳沢誇太郎の研究室に。
扉を通った後、意識が戻った時には目の前にまだ名前も知らない柳沢がいた。
好青年…とまではいかずとも、どこか希望を目に映したような、そんな表情をしていた彼。
柳沢は私を見て口角を上げ、それから一言口にする。
「君はどこからやって来た?」
見られてしまった以上、誤魔化すことは出来そうにない。
しかし他の国の情報を持ち込むだなんてことは禁忌であり、ましてやそれを実現させてしまうかもしれない科学者になどは口が裂けても話せない。
だから私は答えたのだ。
『ごめんなさい、何もわからないの』
「そうか…名前や住んでいたところは?どうしてここに来たんだい?」
柳沢の言葉に首を小さく横に振る。
『お世話になってしまってごめんなさい。けど、こんなのと一緒にいても貴方にメリットは何も無いはずだから…私の事は忘れて下さ「君は、人類の…その体の進化に興味はないかい?」!…無いです』
私は見てきたんだ、その考えを持つ人間が、いかに愚かな考えを宿していたのかを。
「ああ、悪いようには捉えないでくれ給え…このご時世、異能力者が蔓延るような世の中だ。既に人類の身体には、少しずつ変化が起こり始めている」
『異能力者…?』
聞きなれない単語に聞き返すと、柳沢は知らないのか?と首を傾げ、それから丁寧に説明してくれた。
異能力を利用して生活する人々…その中でも特に厄介なのが、悪事を働く者達の事。
警察にも手が負えないような案件が多く、独自の組合が世の均衡を保つために暗躍している…らしい。
「そこで、俺の研究チームは、それにも対抗できるような…付加型の異能力者を作ることの出来るワクチンを生み出そうとしているところなんだ」
『私興味が無いので…ッ?』
冷たく突き放して、すぐにどこかに行くつもりだった。
ナイフを首元に突き立てられるまでは。