第18章 縁の時間
『ち、中也さんそろそろ…』
「中也さんっつったからダメだ」
『中也…っ、確かに好き放題って言ったけど……』
「お前は恥ずかしがってるくらいが一番可愛いからな」
『チェックアウトあるからぁ!!!』
抱きしめられて動けない上に恥ずかしいわ、時間は過ぎるわでもう必死だ。
朝っぱらからこれだよこの人は、いや、好きだけど。
「ちっ、もうんな時間かよ…仕方ねえからもう一泊するか」
『私学校あるんだけ「駆け落ちしちまおう」ダメな大人ッ!!』
中也が変なモードに入り始めたあたりでいい加減にキッ、と睨むように言い切った。
『そんな常識ない人間っ、この世で太宰さんと同類よ!!』
「よし蝶、帰る支度すんぞ。着替えさせてやる」
『ち、調子いいんだから…』
とか言いつつも大人しく着替えさせてもらう。
下着の上にインナーも着てたし、何よりこんな風に甘えられるのも今のうちくらいなものだろう。
「…あんま肩出すような格好すんなよ?あと脚」
『いいじゃない別に…それに脚はタイツ履きます〜』
「よくねえっての、見る奴全員振り向くぞ。タダでさえ容姿が整ってんだからお前」
『…………さらっと口説かないでください』
目を逸らして小さく言うと、中也が上着を着せようとした手をピタリと止めた。
「口説くって…いや、けど俺は心配して……」
『心配とか要らないもん』
「要らねえとかじゃなくてだな…ほら、男は皆見ちまうんだよそういうの。だから『中也は見ないの?興味無い?』…蝶さん?」
『なんで私がこういう格好の服なのか、疑問に思った事今まで無かった?』
チラリと横目に見てみると、たらりと汗を一筋流して口角を引き攣らせる中也。
鈍い…これだから鈍感だって言われるのに。
そもそも“そういう目”で見られるのが苦手な私が、オフショルダーとか足出しのショートパンツやスカートを履くようなこと、普通なかったのに。
誰の為だと思ってるんですか…誰のせいだと思ってるんですか。
「………俺相手の為でも心配だから」
『…心配だけ?』
「…妬きますから本当……いや、冗談抜きで」
『妬く…?中也が?』
これは驚いた。
あの中也が、妬くなんて。
私の格好だけで?
この人が??
「俺にだってあるっつの…なんならお前並みに妬くぞ俺も。可愛い恋人持っちまうと、パートナーは心配なんですよ」