第18章 縁の時間
耳打ちされた驚愕の事実に血の気が引くような思いに苛まれた。
「………帰りたい…のか……?…なあ、蝶…なんでそんなに…」
『…帰りたい、よ…けど、そうじゃないの……会いたいだけなの。……ねえ、中也さん…お願い、私に優しくしないで…?』
俺の行為は、彼女を苦しめるものだった。
確かに彼女は嬉しがっていたし、安心もしていた。
しかし、それと同時に頭の回る彼女は、子供に戻って素直に思ってしまったのだ。
どうして自分は帰れない?
どうして、帰るためには俺と離れなければならない…?
決して自惚れてなんかいない、その証拠に、確かに彼女は帰りたくなどないとも言っていた。
そしてもう一つ、先程の少女の言葉から、俺の中である仮説が生まれるのだ。
「なあ…お前、今の話…………」
異世界同士が隣接しあった世界で生まれた、そう少女は言っていた。
そしてその世界で、確かに一度、“ちゃんと死んだ”と言っていた。
それから死ねない存在になった。
その世界で隣接しあっている異世界の片方はここと同じような、俺の認識するようなただの異能力も持たない人間の住む世界……そしてもう片方は、寿命が何百年にも何千年にも渡る者達の生きる世界。
頭の中で様々なピースが埋まっていき、そしてそれと同時に新たな疑問が俺の中に浮かんでくる。
『………変でしょう?…おかしいでしょう??中也さん、今ゾッとしちゃったの…ちゃんと私も分かってるよ。……ごめんなさい…』
パッと俺から離れて、再び保健室へと戻る蝶。
その背中はどこか寂しげで、本当に消えてしまいそうに儚くて…
「……中也さん?…顔色、悪いけど……帰りたいって、どういう事?ゾッとしたって…」
「…………悪い、今はあいつが優先だ」
「えっ…」
変な考えを振り切るように立ち上がる。
いったい何を動揺していたんだ俺は、切り替えろ。
何があろうとも、どこのどいつでも、どんな奴でも、今のあいつは白石蝶だ。
ただの甘えたな子供だ、ただ俺が好きなだけの寂しがり屋な少女だ。
ゾッとした?俺をなめるんじゃない、こっちがどれだけお前に執着しているか、聞けばお前の方がゾッとするぞ。
考えてみりゃあ俺が縛り付けていただけじゃない。
俺をここまで本気にさせておいて、何が今更ごめんなさいだ、許してたまるかお前なんか。
お前のいない俺は、もう俺じゃあねえんだよ。