第18章 縁の時間
「手つなぐとか…『ダメ…っ』せ、せめて撫で『絶対ダメ!!!』……何メートル外にいればいいっすか…」
『…き、今日は……あんまりこっち…見ないで、下さい……ッ』
「!……分かった。今日は、だな…こっち来たくなったらまたいつでも来い、怒ってねえし、怒らねえから」
な、と言いながらポンポン、と蝶の頭を撫でれば、そのまま蝶がピタリと固まった。
これでもダメか、と諦めをつけて蝶に背を向け、出来るだけ蝶の目に入らない離れた場所へ移動しようと踏み出した時。
「蝶!?」
「えっ、蝶ちゃん!!?」
少し大きな音がして、それと一緒に蝶を心配するような声がいくつも響く。
それに思わずそちらを振り向くと、俺の想像もしていなかった事態が起きていた。
『な……っぁ…、な、んなのこれ……ッ?わ、私…っ……ふえ…ッ、な、んでこんな…』
床に崩れ落ちたように座り込んでいる蝶は両手で頭を抱えて、更に顔を赤くさせて半泣きになっていた。
震える声でなんで、なんでと繰り返す蝶…本当に何をやらかした俺は?
何を、した?
「……蝶、どこか痛いの?」
『ち、が…っ「焦らなくていいよ、ゆっくりでいいから。どこか痛い?」あ………っ、う、うん…どこも…』
「じゃあ次、何か嫌な事でもあった?」
『な、無い…』
「……じゃ、何か嬉しかった?」
カルマの質問に、何かが嬉しくてこんな挙動不審になるか!?と、俺の思っているのと全く同じような声が上がる。
しかしその考えとは裏腹に、少女は目を丸くしてからカルマの方を向くのである。
『……嬉し…?』
「…もしかして照れてる?中也さんに」
『!!!!』
ビクッと大きく肩を跳ねさせた蝶。
こんな反応、誰が見たって分かる。
図星だ。
照れてる?
いや待て、明らかに今までのような照れ方じゃあないだろこれは。
これのどこが照れてるだけだっていうんだ。
「……照れてて、恥ずかしい?…で、嬉しい?」
『…わ、かんない……っ、わかんないッ…!けど…っ、けど……帰りた…』
「!!…蝶、それは『…呼ば、ないで下さい……ッ…今、貴方に呼ばれるとなんか…おかしくなっちゃう、から…っ』………澪」
『!!!?な、なんで…ッ?やめてって…言って…』
蝶の…この少女の発した“帰りたい”は、恐らく俺の家にじゃあない。
帰りたいんだ、元いた世界に。