第18章 縁の時間
「!!…蝶?」
『……ソラさんがいい?やっぱり普通の女の人が良かった…?わがまま言う子供じゃ、やっぱり嫌になっちゃった?』
「蝶、お前何か勘違いして…」
『…………私に嘘吐いてまで、ソラさんと二人で会いたかった…?』
答えてよ。
勘違いとか、そんな話じゃないでしょう。
私は中也に嘘を吐かれたのが苦しいだけ。
会うんだったら、出かけるんだったら、そうだって言っててくれればよかったじゃない。
ポタ、ポタ、と雫が中也の頬に落ちる。
それを見て中也は目を見開き、冷や汗を流す。
「…お前に悟られねえように買いてえもんがあっただけなんだよ……俺はお前の事をよく知ってるからって呼ばれただけで…」
『………何それ。それで女の人と二人で会えるんだ…それで、私以外の人にもあんな笑い方、出来るんだ。…中也さんさあ、酷いと思わない…?私、まだ中也さんとああいうお店、見に行った事ないんだよ…?』
「蝶…ッ、ちょ、おまっ……っ!?」
首元に吸い付いて、チュ、とリップ音を立てて紅い華を咲かせていく。
声を押し殺すように呻く中也だけれど、片方の手を私の肩において少し抵抗しようとする。
しかし、そう思っていたのは私だけだったらしく、中也のその手はすぐに私の頭に移動した。
『!……ッ、?』
「…………な、んだよ…続けねえでいいのか…俺は独占欲が強すぎるくれえの蝶の方が好きだぞ」
『へ…、………今日、ソラさんにどこか触れられた…?ソラさんに、触れた?』
「んな事ねえよ…それに俺が好きな女に触れる時はこうするって、知ってんだろ?お前なら」
『ッ、…!……ぁ…』
手袋を外して、素手で柔らかく私の頬に触れる中也。
……もう、怒ってない…優しい手。
「酒が入ってんのにえらく大人しいじゃねえか、蝶…それともあれか?久しぶりに、澪って呼ばれたくなった?」
『ひぅ…ッ、!?……っ、ぁ、ダメそれ…ッ、そこで呼ばないでって…っっ』
私の顔を引き寄せて、耳元で口調を変えて澪と呼ぶ中也。
こういう口調で澪って呼ばないで…そんな声で、こんな距離で呼ばないで。
「なあ、澪…そんなに嫉妬した?」
『!!!……し、た…っ、した!!……ッ、手袋、してたし…触れてなかった、けど…ッ!殺してやりたいくらいに嫉妬した!!!』
「………可愛いなあ、本当に…酒が入ってて素直で余計に可愛い」