第18章 縁の時間
しっかりと私の体を両腕で抱え、抱き寄せるように強く私を引き寄せるその腕は鍛えられた男の人のもので…
『……ッ?…あ、れ…??……!!?な、なんで!?……な、んで中也さんが…ッ』
先程いた屋上まで中也は飛び上がっていき、屋根のある所に私を抱えたまま入っていく。
するとそこには先ほどの二人がいて、それにお互い気付いて私はすぐに中也の方に顔を埋めて抱きついた。
しかし中也に抱きつくのにさえ臆病になって、ゆっくりと中也から腕を離す。
恐る恐る離した腕に中也は目を見開くのだけれど、怒るようなことはせずに私を階段に座らせ、ふわりと自身の外套をかけてくれた。
「……聞きてえことは山ほどあるが………手前ら、こいつに何かしただろ」
「ヒッ!!?だ、誰だよあんた!!俺らはこの子があそこで雨の中座り込んでたから…」
「そ、そうだよ!!それで寒いだろうからってこっちに誘導して…」
「普段の状態のこいつが建物の屋上から落ちるのにあんなに無抵抗な事はねえんだよ…もう一度聞く、こいつに何かしたよな?」
目を鋭くさせたような中也に怯えてヤケになったのか、酔っていた方の人が口を開いた。
「そ、そりゃあ寒がってんのに見過ごせねえだろ!!それで手持ちにあった酒飲んだら暖まるだろうって……そしたらすぐに元の尾行場所に戻るから、危ねぇと思って止めに…「尾行場所…?」そ、そうだよ」
中也の視線が私に向く。
「……蝶、尾行って…緊急の任務か何かの最中だったのか?」
『………違う』
「…じゃあ何があってそんなことしてたんだよ?お前らしくねえじゃ『中也さんのことつけてたの』…はぁ!?俺!!?」
中也の方に再び顔を向けて、そのままゆっくりと中也に詰め寄っていく。
「おい、蝶さん?…待て待て待て、流石に昼間っからこの雰囲気はやべ……って酒入ってるからか!!!……っ、手前ら、公にはしねえでおいてやるからとっとと仕事に戻れ!!」
「「は、はい!!!」」
すぐさま退散していった二人を気に止めることもなく、中也をその場に押し倒すように組み敷いて、頭の中に浮かんだ言葉をそのまま声に出す。
『……ね、蝶の事嫌い?もう蝶の事嫌になった?…澪の事、もういらなくなった…?』
「お前はもう少し落ち着けって!なんでそんな考えが…」
『今日は中也さん、お仕事って言った……お仕事って、言ってた』