第18章 縁の時間
「あ?意識戻ってんじゃねえか、何をそんなに心配して…」
『!!…中也さ…ん……』
遠慮なく手を振り払って、先程まで自分のいた場所に走り出す。
「あ、おい!!今嬢ちゃん酒入ってんだからそんな所危ないだろ!!?」
スコープを手に取って見てみれば、喫茶店から出始めようとする二人。
『…ッ、また違うとこ……行っちゃうの…っ?』
「おい、そこは流石に危ないって!!こっちに戻れ、落ちたらどうすんだ!!?」
『!!やッ!!離して!!!』
男の人に腕を掴まれて、何故だか嫌悪感しか頭に浮かばない。
腕を無理矢理振り払うように動かせば、もう一人の男の人にも腕を掴まれた。
「ほらほら、危ねぇから中に入ってゆっくりしようぜ?ここで暴れてちゃ本当に危な__」
『……ッふえ…?』
「な…ッ!!?」
思いっきり身を捩って、いつもの癖で飛び上がって二人の腕から抜け出した時だった。
気が付いたのだ、足元を見れば、そこは横浜の町並みであった事に。
気が付いたのだ…二人が私を助けようと腕を伸ばしている事に。
___気が付かなかったのだ、自分の能力の扱い方に。
『……う…そ………ッ』
本当に、落ちちゃった。
どうしよう、どうやっていつもこういう時に対処してた?
あれ、おかしいな…頭が回らない。
どうしよう、約束守れなくなって死んじゃうよ。
また全部やり直しだよ。
中也との約束…まだ結婚だってしてなかったのに。
目をギュッと瞑って、衝撃に耐えるように身体を丸めて覚悟を決める。
道行く人々のざわめきや視線は、雨のせいかさほどささらない。
皆傘をさしているから。
雨の日に上なんて、見る人は普通いないから。
ああ、やっぱり悪い子だ。
バチが当たった以外のなにものでもない。
いいよもう、諦めるから。
諦めるから……せめて中也に会わせてよ。
せめて…中也に……____
建物の屋上から落ちるだけ。
普段ならどうにか対処できるそんな状況に抗えず、怖くなってただ動けなかった。
怖かった。
普通の女の子と何ら変わらず、死ぬのが怖くなるようになった。
だから何にも気付かなかった。
私に向かって走ってくる音にも。
切らした息や、焦る鼓動にも。
大好きなその香り…大好きなその暖かさにも。
「……~~~ッの、馬鹿がっ!!!?何してやがんだこんな所で!!!!!」