第17章 0
『中也さ………?…んにゃ……』
「!悪い、起こしたか?もうすぐ潮田ん所着くから待ってろ」
『渚君…?……ああ…』
「か、完全に寝惚けてるね白石さん…ってそうだ、ごめんね中原さんに送ってもらっちゃって!!」
『んん?いいよ、中也さんが運転する車乗るの久しぶりで私も楽しい』
ニヘラ、とはにかむ隣の少女。
寝起きは寝起きでタチが悪い、なんでこういう時だけ素直になんだよこいつ。
「お前の判断基準そこかよ…」
『ん、これで中也さんと席遠かったら…どうなってたかな』
「しねえから、いや本気で…しませんて蝶さん!!?え、何怒ってんだお前!!?」
照れていたのも束の間、何故だか突然機嫌の悪くなる蝶。
雰囲気で分かる、本当に機嫌の悪い時だこれは。
…まさか潮田と担任に話してたのが聞かれてた……?
いや、しかし流石にさっきのは寝た振りじゃあなかったはずだ。
『………さっきのあいつ……と渚君のお母さんは』
「あ、あいつはもう烏間さんに引き渡した!!んで潮田の母親は気絶して…『そう………ねえ中也…私になにか隠してない?』!!」
どうしてそんなところに勘づかれたのかは分からない。
野生の勘のようなものが作用しているのか、単純に俺がわかりやすいのか。
心配そうな目で俺に聞くそいつはどこか少し怯えているようにすら見えて。
「お前に隠してるって…例えば?」
『……さっきあの人、私の事…「気のせいだ…忘れろ。忘れていい事もある」……ん…』
いい子だ、と言うように頭を柔らかく撫でるも、蝶はどこか腑に落ちない様子。
俺が手を出しちまった理由に勘づかれてしまったらしい…よかった、俺が0の話をした事には気付かれなくて。
俺は潮田と担任に、一つとある嘘を吐いたから。
___世間の奴らがいつしかそう呼ぶようになった
そんなものは嘘だ、いつしかでもなければ世間の奴らが作り出した異名なんかじゃねえ。
あの呼び名はこいつにとって、ただの足枷でしか…首輪でしかねえ物なのに。
被験者No.“0”
皮肉な事に、この世界に来て蝶に付けられた最初の名前。
それが名前…それが呼び名。
名前に愛など存在しない。
つけた相手は親でもない。
初めて…心を許そうとした相手。
初めて、自身の全てを受け入れてくれると信じた相手。
零は…0は、ただの実験用のモルモットの名でしかなかったのだ。