第17章 0
「…にしてもさっきは本当にあの場でキスを?」
「……寝てるくれえが丁度いい。あんまりこいつを怖がらせたくねえし…何より、潮田や担任が聞きたそうなことがありそうだったしな」
潮田の母親の車を運転しながら、助手席でスヨスヨと眠る蝶を横目に後部座席の二人と話す。
俺が言ったことは図星だったのだろう、潮田の表情が固くなる。
「いいぞ、今なら…蝶が寝てる今なら、手前ら二人しかいねえいまなら話してやっても」
もう見当はついちまってるだろうがな、と口にすると、潮田が少し遠慮気味に口を開く。
あまり蝶から特別話を聞くような奴ではないが、いい奴だとはよく聞いているし俺も知っている。
それに、こいつの顔は“分かっている”顔だ。
「……じゃあ、その…し、白石さんは…元殺し屋、なんですよね?」
「そうだな」
「…世界一の殺し屋二名……死神はあの人だったとして、もう一人の零…を殺したって…」
「それもそうだな、確かに殺した。俺と二人で」
「!!………けど、さっきの殺し屋の言いぶりだと、単にそういうわけじゃない……白石さんが、零とそっくりだって、イリーナ先生も言ってたけど…中原さんの反応は“そう”じゃない」
中々に鋭い観察眼の潮田に内心少し関心しつつ、その問に答えるべくして一呼吸置く。
「…手前の察してる通りだ、潮田。……蝶はポートマフィアに入る以前から、世界的に有名な殺し屋として名が知れていてな…が、その頃名前を持ち合わせていなかったこいつには、代わりに世間が付けた名前がある。……それが通り名となり、名前として呼ばれるようになった。そいつが零…0だ」
「「!!!!」」
「…殺したっつうのは、蝶が殺しを止めたから0が消えたって話なんだよ。そのために俺は協力した……二人で殺したっつうのはそういう事だ。こいつは俺のおかげだっつってるが、実質俺以外にも色んな奴に世話んなって………なんだよ二人してんな顔して?」
二人の表情は驚いてはいたものの、やはりと言うべきかなんというか、腑に落ちたような顔つきだった。
「い、いえ…死神と戦った時なんかの会話からしてみても、経験からしてみてもそれなら納得だと」
「ぼ、僕も……」
「そうか…じゃあもう一つ教えておいてやる。……こいつが0だと呼ばれていた時代、確かにこいつは殺し屋だった。が、それは全てこいつの意思じゃあねえ」