第17章 0
私の言葉に怒りもせずに、ただ優しく微笑んで私の頬に手を添える中也。
それに溢れてきた涙を拭っていれば、中也の口が開かれる。
「お前…馬鹿だなぁ、本当……そんな事で悩んでよ。そういう所を周りは…俺は綺麗だっつってんだ。汚くねえって、人間出来てる、しっかりしすぎたいい奴だって」
『!!私みたいなのより中也の方がよっぽど___』
「俺は確かにこういう場所に縁は無かったが、それでも代わりに普通じゃ味わえねえような幸せをいっぱい蝶からもらってんぞ?」
私の言葉を遮った中也の言葉に、また困惑した。
『……何、それ…どういう………』
「…もしも俺が普通に学生やってりゃ、きっと今みてえに楽しめる職にはありつけてねえし…お前とも出逢えてねえ。お前の成長も見れてねえし、女に惚れるだなんて経験も無かっただろう…恋人も作らず、増してや結婚なんか考えもしねえ………そんで多分、ちゃんと心の内を話せるような家族もやっぱりいねえ」
『……』
「………だから、寧ろこういう過程で育ってきて…お前と出逢えて、成長を見られて、よっぽど俺は幸せなんだ。自分では想像もしてなかった、世界でたった一人の家族なんてもんまで出来ちまって…」
しかもそいつが可愛くて可愛くて仕方なくて、結婚の約束までしちまうときた。
歯を見せて笑った中也の表情に目を見開いて、本当に幸せそうな目の前の彼に頭の中が真っ白になる。
「…寧ろ俺がお前に進学しろって言うのは自分の為ってのが本音なんだよ。お前にとっちゃ取るに足らねえ勉強だろうが…それでもやっぱり、蝶には普通の生活を送らせてやりてえ。そんで無邪気に笑って成長して、人と関わり合いながら“ちゃんと”大人になればいい」
『……それが…そんなのが、幸せ…?』
「普通の事だ…普通がどれだけ幸せか、蝶が一番よく知ってるだろ?…俺に普通をくれたのは…そんな、ありえねえような贈り物をくれちまうのは、他の誰でもなくお前なんだよ。今じゃもう他の誰より幸せな自信あるぞ、俺は」
『…………言い過ぎ…親バカ。……私、ちょっと強引に言われなきゃ簡単に従ってなんてあげないのよ?』
私の涙を指で掬って、中也は私の言葉で、私に傅くように膝をつく。
そして帽子を片手で取って胸元に当て、私の片手を取って口にした。
「……高校…卒業して、ちゃんと時が来たら……結婚しよう…して下さい、俺と」