第17章 0
『………怒、らない…?』
「約束する」
『怒鳴、らない…?怖い事言わない?離れて行っちゃわ「しねえよ、そんな事。心配し過ぎだ…親だからとかんなもんは考えなくていい。俺が知りたいだけだ…俺がお前が考え込んでる事を聞いてやりてえだけだ」…』
____分からないだけなの
小さく口を開いて、言葉を紡ぐ。
それに中也は、何が、と優しく返す。
『私、みたいなのがそんな生活送っちゃいけないの…ダメなんだよ、そんな夢見ちゃ。浅野さんにだって、それこそ迷惑かける話になる』
「…浅野さんの事は今は置いておく。……なんでまたそんな風に考える?お前は別に好きでやって来てたわけじゃねえ…それに、何よりお前が普通の中学生だっつうことはここの連中もよく分かってる」
『………そういう事、言うから…』
中也が私と目線を合わせるように屈んで、もう一度名前を呼ばれて目を合わせる。
「………“俺に”遠慮、してるだろ。…お前今、“俺と”比べて進路の事考えてるだろ」
『!?な、なんでそんなッ…』
「そこまでお前が考え込むのは俺の事くらいしかねえだろって」
中也の目はもう私の考えてる事を分かってしまっているような目で…しかし、それでも私の口から聞きたいような。
私が言うのを待っているような、そんな悲しい瞳だった。
寂しそうな瞳だった。
『………中也、は絶対、言うじゃない…行っておけって。折角行けるんだから、行っておいた方が絶対に私の為だって』
「…ああ、言うな。特に戸籍を作れねえお前にとっちゃ、浅野さんから持ちかけられてる話はありがてえもんだ。それに何より、折角『それ』…」
息を少し吸って、それをまた吐いて…小さく、喉を震わせながらも言葉を徐々に紡いでいく。
『分かん、ないよ……なんでさ、私にこんなにしてくれる…こんなに凄い、人なのに…っ、なんで?なんで、こんなにいい人なのに…なんで一回しか人生がないのに、中也にはこういう普通が無かったの…?』
私と同じで親に縁のなかった人。
普通と縁がなくて、自身の能力に嫌悪した時期もあって…学校だなんていうものとも、私と同じく全く縁のなかった人。
『なんで…っ?なんで中也に無かったのに、私なんかが……ッ、嫌だよ、そんなのやだよ……こんな理不尽、中也に私が作りたくない…私なんかよりよっぽど中也は良い人で、凄い人で、綺麗で……ッ…』