第17章 0
廊下に出て人が通らないのを確認し、中也は面と向かって話を始める。
「さっきの、進路の話だが…お前、俺が行けって言えば行くか?高校」
殺せんせーと同じこと言ってる。
なんで、中也がそんな事聞くの。
『…行かない。私本当にいいから……戸籍があっても、探偵社の仕事の方が性に合ってるの』
「……お前は特別演技が上手すぎるから、ちゃんと見てやれてる内に言ってくれねえと気付けなくなるかもしれねえぞ」
『へ…?……だから、心配しなくても大丈夫だって。勉強がしたくなったら勝手に自分でするし…それにこれ、私の意見じゃない。ちゃんと言ってるんだからいいでしょう?』
「…ま、最初に比べりゃだいぶマシだが…………けど蝶。俺はお前に“嘘を吐け”だなんて教えた事は一度もねえはずだぞ。いつも“我が儘を言え”、“素直になれ”、“人に甘えろ”としか言ってはこなかったはずだ」
全てを見透かされたような青い瞳に吸い込まれるような感覚に陥った。
嘘…なんて言うほど大袈裟なことではない。
ただ、中也の言いつけを今回は…故意的に破っているのは否めない。
『な、んで…そんな事?…私が嘘なんか「何回言っても必死んなって気付いてねえだろ?また言ってんぞ、“大丈夫”って」え…』
「………なあ、正直に言え?怒りはしねえから…なんで進学はしたくねえんだ。勉強がっつっても、お前実は自分から学ぶ分には好きだろ、知ってんだぞ…それに友人作って学生生活すんのも好きなはずだ、よく知ってる」
『…それが終わるのが遅いか早いかだけの違いじゃない。中卒の人なんて世の中にはいっぱい……』
「特にこれといった理由もなしに、試したことのねえもんを俺に勧められて断る理由がお前にはねえはずだろ」
『!!!』
まさか、そんな所で…それで殺せんせーもあんな質問を?
確かに私は、自分の試したことのないような事を中也に勧められて断る事なんか普通無い。
理由はただシンプルに、中也がいいと思って言ってくれてる事だから。
中也が私の為を思って言ってくれてる事だって分かってるから。
だからこそ、進学だなんて大事な事を中也から勧められて、そこまで断固として断る理由が普通は私には無いはずなのである。
「………何に遠慮してる?…お前がそこまで隠そうとしてる事は、大体俺が絡んでる事だろ……俺はお前の事をちゃんと見てやりたいと思ってる」