第17章 0
その声にははいもいいえも言えなかった。
どう答えるのが正解なのか、私には分からなかったから。
『いや、そんな事…』
「無いことないだろう、現に今だって遠慮しているじゃないか」
『!!してな…』
「じゃあ君が今何を思いつめているのか、中原君に目の前で聞いていてもらうかい?」
心臓が掴まれたような感覚に陥った。
それと一緒に、また鳩尾付近が悲鳴を上げる。
また、鉄の味がする。
保健室の寝台のシーツを紅く染め、そのままなにも反応出来なくなった。
「蝶!!お前また…ッ、塞がってたんなら、まさかもう一回同じようになっちまったってのか!!?」
『……っ、どな、らないで……ッ、蝶の事、怒らないで…っ』
「!?…怒って、ねえぞ?何言ってんだよお前……な?怒ってねえから…」
『………首領、お話…やめときます。放っておいたら治るから…何かするより前に、治っちゃうから』
「……………君のそれは恐らく急激な胃潰瘍…の悪化だ。普通そこまで急激に悪化することも突然症状に現れるような事も無い…が、蝶ちゃんの身体は君が色々なものを蓄積しすぎないよう、他へと発散させる仕組みになっている傾向があるからね」
今回のそれは、どう考えても君の身体ではストレス以外に考えられないよ。
首領の声がやけに耳に残った。
それも、スピーカーにした状態のまま…中也に聞かれた。
聞かれてしまった。
ストレスとか、そんな話絶対に聞かせちゃいけない人に。
「…蝶……ストレスって…」
『中也とは関係ない、から…ッ……放っておいたら治るから…ね?ほ、ほら…早くおうち帰ろうよ。それで…それ、でさ?いつもみたいにしてくれ、てたら…嬉しいから……っ』
「……嬉しいっつうなら…お前、なんで今泣いてんだよ」
『!!…う、嬉し泣き……?えへへ、ごめんなさい…ねえ、帰ろ……?………帰りたい。中也と、一緒に早く帰りたい』
「聞いてやりてえのは山々だが、こっから手合わせ申し込まれてたり…」
動かそうとした手を止めた。
ダメだなあ私、ほら、やっぱり悪いことしか考えてない。
『…そ、だね。……うん、じゃあ待ってる』
「………いや、やっぱり帰ろう。明日に回してもらえば良いだけの話だ…帰り方のご希望はありますかね?お嬢さん」
『へ…?』
思わず間抜けな声が漏れた。
人と約束してたのに?
なんで…?