第17章 0
『……ん…っ、………!!?へ!?寝過ごした!!?』
目が覚めても教室には誰もいなくって…どころかみんな机の上にそれぞれ制服が置いてあって。
今日の六時間目だ…体育だ。
待ちに待ってた手合わせの時間…こんな時に寝てるなんて。
それに何で誰も五時間目に起こしてくれないのよ、いつもなら、絶対誰か…
体を起こすと同時に気が付いた。
背中にかけられていたものに。
あたたかくて安心しすぎてしまうそれ。
手に取って見てみてもやはり中也の外套で。
『……何、よ…何よ…………ッ…』
どこにもぶつけられなくなった感情が溢れ出た。
「あの男がね?蝶が自分から調子が悪いって訴えてる時は休ませてやってくれって…中学高校の授業の内容くらいなら自分でも教えられるからってさ」
目元の雫を乱暴に拭うように腕で擦れば、すぐに教室の入口の方から声が響く。
そちらに顔を向けるとイリーナ先生が立っていて、こちらに歩いてきてカルマの席に座って私を見た。
「蝶、ちょっと話しましょうよ。今なら誰もいないし…あの男もいないわよ?」
『!!い、りーなせんせ…っ』
「物分りの悪い男を好きなのは大変でしょう?…バレないと思った?今日のあんた、珍しく分かりやすい顔してたわよ…それでも私と、特別あんたと関わりが深いカルマくらいしか気付いてなかったでしょうけど」
座るように促されて大人しく座ると、イリーナ先生が困ったように微笑んで私を見る。
「今日、なんか変だなって…ずっとあんたの事見てたのよ。そしたらえらく落ち込んでるようだったし……それで原因に何となく予想がついてあの男の方を観察してみるじゃない?」
『…』
「そしたら蝶の事そっちのけで他にばっかり構ってるし…それに蝶の目線に気づいてもすぐに他が間に入ってくるんだもの。しかも蝶の言葉遮るとか珍しい話だし、その上女子にはなんだかんだ対応が優しいし」
まああんたの友達だからだろうけど、と呆れたように言うイリーナ先生。
そうだよ、だから中也が悪いところなんて一つもないの。
私がわがまま言っちゃいけないところ。
私が無理を言っちゃいけないところ。
中也の事を困らせちゃ、いけないところ。
「……で、あんたはただの餓鬼共とは違って大人だから…あの男の行動の理由を分かっていて溜め込んでいると見た」
『!……な、なんで大人って…?』