第3章 新しい仲間と新しい敵と…ⅰ
「い、いえ大丈夫です!」
首領が来たらすぐに撫でるのをやめてしまった中也さん。
まあ仕方ないか、一応上司の前だもんね。
「そう?じゃ、中原君腕かして。針抜くから」
「あ、はい」
針を抜く。
首領から発せられたその言葉を聞くだけでぞっとして身震いした。
「よし、これで暫くそこ押さえといてね中原君…蝶ちゃんは、あともうちょっと待っててね。中原君の血液が流れきったらまた抜いて…蝶ちゃん?」
「ん、蝶?」
『え、あ、はい…分かりました、あはは』
やばい、びっくりするほどに笑えない。
「うん?とりあえず点滴の方は終わったみたいだから、そっち抜くね。手、かして」
手、動かしたい。
でも、あの針が引き抜かれる感触がリアルに想像されるためか、全然力が入らない。
『あ、ごめんなさい。すぐに動かすんで…きゃっ、!?』
突如目の前に現れる中也さんの顔。
私の視線に合うようしゃがんでいる中也さんは、私の首元に腕を回して私を軽く抱き寄せた。
擽ったさに出そうになった声を何とか堪えていると、今度は耳元でぽつりと呟かれる。
「見なくていい。俺がここに居るって事だけ考えとけ」
こんなに近くでそんな事を言われると、その通り、中也さんの事だけしか頭に浮かばなくなる。
『あ、…ん、』
管に繋がれていない右手で中也さんの腕に手をあてて、返事をする。
中也さんがそばにいる、暖かい…
「おや、これは凄い」
体の力は抜けていて、いつの間にか左手の甲には止血用のガーゼが貼られていた。
しかし次の刺激はそんなに優しくはなかった。
輸血が終わったのか、腕の方の…太い輸血用の針が、動いた。
『ん、いやっ…あ……』
中也さんの腕を握る手に力が入る。
「頑張れ蝶、大丈夫だ。俺はここにいるから」
『うん、うんっ…』
注射針は、大っ嫌い。
だけど、ここにあいつらはいない。
それどころか中也さんがいる。
泣いたって、痛かった後には、中也さんがきっと何とかしてくれる。
「はい、終わったよ!…じゃあ後は中原君に任せようかな?蝶ちゃん、お疲れ様。今日はもう余り無茶をしないようにね!」
首領は止血をしてからそそくさと退室してしまった。
相変わらず優しいな、あの人は。
「はい……終わったぞ。よく頑張った」
『ん…』
まだ少し痛みの残る左腕を上げ、中也さんに抱きついた。