第16章 力の使い方
言った途端にガラ、とフォークを置いてこちらに視線を送る中也。
心なしか顔が真顔になっている。
その視線から逃れるように目を伏せるように逸らしていけば蝶、と一声呼ばれてビクッと肩を震わせる。
『な、に…っ?』
「…お前…本当可愛い奴だな。何なんだよ俺のこと好きすぎてとか…悶え殺されるかと思った」
『そ、そういうの言わなくてい「お前が言わせんだよ」そんな理不尽な…ッ!』
なでこなでことお店の中なのに撫で撫でされて、それと反対の手で顔を覆うように頭を何故か抱えられる。
本当の事言っただけなのに、と更に私は困惑するのだけれど、そんな事も知らずに私の愛しい目の前の彼は私に言うのだ。
「そんなんでこの先大丈夫か?お前…今日だってそうだ、帰ってから寝れんのかよ?」
『!…………寝るもん。中也いないの寂しいから嫌』
「分かった、よく分かった、とっとと仕事片付けて帰るわ」
ムス、と頬を膨らませれば中也から即答で返事が返ってきたため、すぐに機嫌が戻ってパア、と目が明るくなる。
「……分かりやす」
『だ、だめ…?』
「いやいや、寧ろいいって。初期の頃より断然いい」
『…ね、ねぇ……一回おうち帰ってから学校行きたい…』
「?それは構わねえが…」
不思議そうな顔をする中也には流石にそこまでは気付かれていないらしく、寧ろ私の中ではこんな事のためにお願いしてもいいのかな、なんて気持ちが溢れてくる。
『その……中也に、もうちょっと甘えてから行きたい…………なんて…』
「とっとと食うぞ、もういっその事今から一生家で甘えてろお前、もうどこにも行かなくていい、なんなら俺も一生家にいる」
『それだめな生活になるからやめて…!?』
反応がオーバーすぎて本当この人大丈夫なのかと疑うくらいのレベルだ。
……いや、本当。
大丈夫?この人。
「お前見てるだけで生きていけそうな気がする」
『それ危ないやつだから…私が』
「お前覚えとけよ、今日帰ってきたら覚悟してやがれ。今世紀最大級に甘やかしてやる、もう決めた。今決めた、絶対実行してやる」
『え、えぇ…っ』
覚悟も何も。
甘いものを目の前にしてこんなにも誰かに翻弄されるだなんてこと初めてだ。
そこに集中出来ないくらいに心を揺さぶられる人がいるだなんて。
まあ、嬉しいからどうしても頬が緩んでしまうのだけれど。