第16章 力の使い方
「…成程な……あー、なんで気付かなかったんだ俺…お前にされた時に気付くべきだった」
『!も、もう思い出したの……?頭、痛くないの…?』
「痛いわけあるかよ、大事なお前の事を思い出すのに」
ポンポン、と頭を撫でるその手はやはり柔らかくて、しかしどこか力強いものだった。
『……思い出して、私がどんな人間か分かってるのに、大事なんて言えるの?』
「寧ろ余計に大事になったな…んな事する人間がマジでいるって近い奴に聞いたのは初めてだったが………お前、今まで俺と“そういう事”をするときに怖くはならなかったのか?」
『…手で優しくされ、たり……キスされたり、撫でられたりした事、無かった。……中也さんが初めてだった。だから知らなかった、あれがそういう行為だったって…私、この世界に来るとっくの昔から、全然綺麗な身体じゃ無かったんだって』
「綺麗じゃねえとか、確か修学旅行で襲われてた時も言ってたなんな事……お前の何が綺麗じゃねえんだよ。そんなもんに耐えて頑張って生きてきたんじゃねえか………なんだ?お前、まさかそれで俺が幻滅するとでも思ってたのか?」
中也の言葉にピクリと反応して目を逸らせば、また頭をポンポン、と軽く撫でるその手。
「阿呆……もっと自信持てよ、お前が選んだ男に」
『!……え…』
「お前はそんな男に惚れたのか?色んな世界を見て色んな人間を見てきて…そんな中から初めて自分が選んだ相手に、お前はそんなに自信がねえか?」
『……こ、ういうの…初めて、だから分かんな…』
「そういう反応見せてる時点で綺麗すぎるっつうんだよ。分かれ、頭悪いわけじゃねえんだから……それに、俺が身体の事情の為だけに惚れた女に愛想尽かすような男に見えんのかお前は?」
『!!!…見え、ない……見えない……ッ』
それならいい、とまた抱きしめられて、今度は背中もトントン、と撫でられる。
小さな子供をあやすような、懐の広さの垣間見えるその手にまた涙が零れた。
「俺は死ぬような事があったとしてもお前を裏切るような事だけは絶対にしねえ…とっくの昔に誓ってる。んな事する位なら死んじまったほうがよっぽどマシだ………が、生憎んなことしたら可愛い寂しがり屋な姫さんがまた泣いちまうからな。どの道俺はお前のもんでいる道しか残っちゃいねえんだよ」
再びおでこに触れた唇はあたたかかった。