第16章 力の使い方
「……その、蝶?」
『なぁに?中也今日怒ってる…?』
「…別にもう怒ってはねえが……お前、さっき兄貴がどうのって言っ『太宰さんわざとお酒飲ましたのかなぁ…頭くらくらする〜…』…蝶?もう一度聞くが、お前…」
兄貴、という単語を出されるのに伴って、それ以上何も言わせないように言葉を被せていく。
しかし流石に多分相手も気付いてる。
お酒が回ってるはずなのに、それでも突発的に口をついて言葉が出てしまうのだ。
「兄『そうだ、中也!今日ね、谷崎さんのお手製ケーキが予想以上に美味し…』蝶」
ビク、と肩を揺らして口ごもる。
何か話さなきゃ、話を逸らさなきゃ。
そんな事ばかりが脳内を巡って、頭の中がぐるぐるする。
『や、やだなあ中也、なんでそんなに私の事呼ぶのよ…や、やっぱりまだ怒って…ます?その…え、っと……あれ?何言おうとしたんだっけ、ちょっと待ってね今思い出「蝶」!!…は、い』
「……兄貴がいたのか?お前」
『…………私の兄は織田作だけよ』
「なら聞き方を変える。この世界に来る以前に、誰かに襲われた事があんのか」
『お、そわれたとか…私よく分かんない、から……そんな事より___』
言いかけて、やめた。
言えなかった。
中也の目が泣きそうだったから。
「…怖かったんだろ……恐ろしかったんだろ。そんな事とか、言うんじゃねえ…大事なことだろうが、お前は女なんだぞ」
『!!……嫌、だよ…中也、さん……離れてっちゃうの嫌…嫌…っ』
「なんで俺が離れていくんだっつの…俺が一言でもんな事言ったか?それで今まで離れた事があったか?」
少し考えてから、そんな事は一度もなかったと…中也はそんな事してこなかったと、頭がハッキリと認識する。
それにぶわっと涙が目に溜まって、全部言ってしまおうかと口を薄く開く。
『ぁ…離、れない……?どこにも…置いてか、ない?蝶の事嫌いにならない…ッ、?』
「約束する……破りそうになりでもしたら、能力使ってでも傍に置いてろ。怒らねえし…お前はそれくらいわがまま通そうとしたっていい」
大きすぎるそのわがままの内容に目を見開いて中也の目を見れば、また柔らかい表情に戻っていた。
なんて顔してるのよ…そんな顔、マフィアがするような顔じゃないでしょ。
『…ごめん…な、さぃ……』
中也の頭に両手を当てて、かけておいたロックを解除した。