第16章 力の使い方
中也がしゃがんで私の前から私の肩に触れる。
それにさえ少し怯えてしまって、肩をビクリと跳ねさせた。
だ、ダメだ、なんて言えばいいかとか全然分からない。
どうしよう、なんて言えばいい?
何も考えずに来ちゃっただけで、別に困らせたかったわけでもないのに…
「……蝶、怒ってねえから。今ちょうど終わらせたところだから…ゆっくりでもいい、理由が知りたいだけだ。ちゃんと話してくれねえか?」
優しい声色で話されて余計に罪悪感が募った。
そうだ、そもそもこの人、私のためにいつだって急いでお仕事終わらせてる人だったじゃない。
なんで今日に限ってそんな大事な事忘れて我慢出来なかったのよ、私。
『ぁ…べ、つに……ご、めんなさい…』
「お前が謝る必要ねえだろ?俺ん所に来たってだけじゃねえか…どんな理由でも怒らねえよ」
『!……中、也に会い…たくて』
「…どうして会いたくなった?」
『…………ちょっと、色々考えてたら…ちょっとだけ、寂しくなった』
顔上げろ、と優しく言われて素直にそれに従うも、目を合わせられなくてつい伏し目がちになる。
こんな聞き方されるから、言ってもいいのかなって思っちゃって、言っちゃった。
どうしよう、困らせてる。
迷惑かけてる…邪魔、してる。
『ぁ、の……帰りま____ッ、?』
私の考えとは裏腹に、これもまた優しく、包み込むように抱きしめられた。
背中をトントンと撫でられながら、中也の声が上から響いてくる。
「帰らなくていい、烏間さんから謝罪の連絡が入ってきて、今日お前がどういった所で過ごしていたのかは知っていた。…ちょっとなんかじゃねえだろ、色々溜めて悩むより俺のところに来てくれた方が俺は嬉しい」
『え…』
「だってお前、今までこんな風に俺の所に来たこと無かったろ。任務先だったからヒヤリとはしたが……お前だって今は子供なんだ、存分に甘えておけばいい」
『!!…ッ……今日、一緒に帰ろ…?待ってていい?』
「おう、待ってるなんて言わずに一緒にいればいい。少し報告すんのに時間はかかっちまうけど、それでもよければ」
ニッと笑う中也の表情は、暗い中でも明るくて、それを見た途端に安心して私の方からも抱き着いた。
「うちの子供は特別甘えたがりだからなぁ、素直に来てくれんのは嬉しいんだよ」
『…っ、親バカ』
「可愛い娘兼恋人様だからな」