第16章 力の使い方
覗いてみたところ、どうやら戦闘はもう終わっているらしく後は処理をするだけの様子。
中也と黒服さん達と、後は何故か立原が単体でそこに居合わせている。
珍しい、黒蜥蜴から離れて行動…?
いや、今回連れてきた黒服さん達が立原の直属の部下だった?
どっちでもいいや、もうお仕事が終わっているのなら問題は無い。
いや、まあ大ありだとは思うけれど。
それでも今回ばかりは本能が勝った。
扉の向こう側に転移して、一瞬で中也達の集まっているところの近くの木の陰に隠れる。
下手に今抱きついて敵と間違われちゃ危ないし。
膝を抱えてその場に座り、一息吐いてから呼吸を整えた。
…そういえば何も考えずに来ちゃったけど、これもしかして結構拙い状況?
「……!誰だ、そこにいるのは…」
『!!』
それも中也本人から気配を察知される始末。
ああ、焦りすぎて消せてなかった…どうしよう、今更だけど出たら出たで怒られちゃうかな。
鬱陶しいって、思われちゃうかな。
冷静になって、私は一体何をしているのだと動揺して、心臓の動悸が収まらなくなる。
ああ、もう早く帰ろう、お仕事の邪魔なんかするものじゃない。
なんて考えている内にも誰かの足音が近付いてきて、それに更に焦って小さく扉を創った。
しかし、それが拙かった。
「?これ…!お、おい、まさか蝶か!!?」
『!!え、なんで…っ!』
こちらに回り込んできたのは立原だった。
そして自分の左手を見て、すぐに気付かれた原因にようやく気が付く。
焦りすぎた、何も気を付けていなかった。
白い蝶が数羽、ほのかに煌めいて舞っていた。
「お前の方こそ何してんだよこんな所で!!?」
「蝶だと!?なんでこんな時間にこんな所に…」
中也の声が聞こえて、それと一緒にこちらに駆け寄ってくる。
もうダメだって、会えて嬉しいはずの人に少しだけ怖くなりながら、抱えた膝に顔を埋め、膝を抱える腕にグ、と力を込める。
『ご、めんなさ…邪魔するつもりじゃ……』
「邪魔なわけあるか!そうじゃなくてお前、変なタイミングで来ちまったら危ねえだろ!?…っ、どうしたよ、この時間帯に俺のところに来るなんざ珍しいじゃねえか」
中也の声は怒ってはいなくて、私の身を案じたその大人な気遣いに自分が恥ずかしくなった。
やっぱり子供って凄い。
素直になるのは、こんなにも難しい。