第15章 大切な人
私が人に敏感なところを優しく触れられたのはこの世界に来てからが初めてで…ああいう感覚がこれに繋がるものだなんて知らなくて。
だから全然知らなかった、キスにも種類があるなんて。
何にも知らなかった、子供を作るために本来はする事なんだって。
だって教えてもらえなかったから。
いい子になろうと必死だっただけだったから。
具体的な話はしていなかったけれど、私が実の兄から変な扱いを受けていたという話は、小さな頃に中也さんにした事がある。
だからこそ、今気付かせてはいけないのだ。
これも含めて、中也さんには思い出させちゃいけない。
今思い出されてしまったら…
ふと立原の様子を見てみれば、信じられないといったような顔をして少し顔色を悪くしている。
『…ね?全然綺麗じゃないでしょう?………何の目的だったのかは知らないけれど、結局は利用されてただけなんだよ。私賢くなかったし…本当に、言われてたとおり馬鹿な子だったから』
「………この話、他には…他に誰か、した奴は」
『………織田作さん。…織田作、だけ』
「!…幹部には?」
『……今思い出されたら、理解されちゃうから…話した事、思い出せないように細工してある』
困ったような顔をすれば立原は冷や汗を流した。
『ね…離れたいでしょう?いらないでしょ……今考えても悪い子だよ。結局いい子になろうとして馬鹿みたいに従って、余計に変な身体になっちゃってさぁ…こんなのが恋人じゃあ、嫌…でしょう?でも私、馬鹿だからさぁ……っ、どうしたら捨てられないか分かんないんだ…あ……いい子でいるしか、なくって…ッ!』
震える喉からなんとか声を振り絞れば、立原の手が頭に乗せられ、背中をトントン、と摩られる。
それに何かがこみ上げてきて、胸の奥をきゅうっとしめつける。
『た、ちは…』
「…馬鹿なんかじゃねえよ……ッ、よく耐えてきたんじゃねえか!よく一人で頑張ってきたんじゃねえか!!それのどこが悪い子だ!?誰が言うんだそんな事!!!…もし、もしも誰かがお前にそういうんなら、幹部を敵に回したとしても俺はお前についてる!!絶対だ!!!」
『……頑張っ…?』
「そうだ、頑張ってきたんだ…偉いやつだ……綺麗な奴だ!汚いところなんかこれっぽっちも無え!!………必死に耐えて、頑張るやつを俺はいい子って呼ぶもんだと思ってる」