第15章 大切な人
『…お母さんにもお父さんにも言わた事ない、そんな事』
「そりゃあそいつらが馬鹿だっただけだ……言い換えりゃあ、そいつらが悪い子だっただけだ」
『だ、けど私が悪い子だからって…「悪い奴らがいい奴らを見ても敵だとしか認識しねえだろ…そういう事だ」なにそれ、説明が雑だよ…ッ、立原ぁ…っ』
ポロ、と零れた雫を拭うこと無く、立原に泣きつくように声をあげる。
「なんでも言え…誰も怒らねえし、誰も敵じゃねえんだ。中原幹部は勿論…俺もいる」
『怖、かったのッ…他の人にああいう事されるのっ…それで、変になって、色々グチャグチャになって!!中也さ、んが離れてくのが怖かったの…っ、他の人の所に…普通の人のとこに行っちゃうのが怖かったの…!!』
「お前そこだけは本当馬鹿だなぁ…お前も普通の人間だろ。それもかなり人間出来てる……中原さんがお前以外のやつのとこに行くと思うか?」
『ッ…怖、い時に放っておかれるのが怖かった…んだもん……それで途中で不満に思って、なんで中也さんに不満なんか持ってるんだろうって…なんで今のままで十分幸せだって思えないんだろうって!!……っ、それ、で…いい子にならなきゃって…』
頭に思い描いた“お兄ちゃん”は空想で、ただの私の願望で。
それを理解した上で、あの人は…織田作さんは、私にそれでいいと言ったのだ。
それは悪い事ではないと。
人が人に愛情を求めるのは大切な事なのだと、当然なのだと。
その時みたいに頭を撫でて、背中を摩る立原に、そのせいで余計に感情が揺さぶられた。
私は愛情が欲しかった。
私を受け入れてくれる人が欲しかった。
誰かの大切になりたかった…誰かの一番になりたかった。
いい子になんかなりたくなかった。
痛いのも辛いのも怖いのも暗いのも…そういう事をする、そういう目で私を見る男の人の視線も怖かった。
変に敏感なこの身体も、憎たらしかった。
「お前がいつ悪くなったんだよ……確かに普段から小生意気で小憎らしいわ大口叩くわ暴言吐くわ扱いは辛辣だわだがなあ!!それも含めて可愛らしいじゃいけねえのかよ!!女子中学生らしくていいじゃねえか!何も自分を責める必要ねえんだぞお前は!!」
『……ッ、中也さん、怒ってないかなぁ…?嫌われて、ない……かなぁ…っ?』
「そんな事有り得ねえよ…んな事を思うような人をおれは尊敬なんかしねえぞ」