第15章 大切な人
『…私知ってるもん。いい子にしてたら怒られないの…言うこと聞いたら褒めてもらえるし、痛いことされないの………だから、いい子にしてたら中也さんも…私の事、嫌いにならないでいて…』
「……蝶、家族ん中に兄貴がいたのか?」
『!!!…ん』
「その兄貴になにを教え込まれた…今のその発想、自発的に考え出すような内容じゃねえ事だけは確かだ。無理矢理そう思うようにねじ込まれた教育だ、それは」
『……………私の事嫌いにならない?悪い子って…いらない子って、思わない…?……中也さんに、言わない…っ?』
私の中にあったのはこれだけ。
嫌われたくない、捨てられたくない…悪い子って思われたくない、居場所が欲しい。
中也さんに、捨てられたくない。
「…約束する。殺されかけてもそれだけは守る」
『…………ん…』
それから小さく語ったのは兄の事。
血が繋がっていたのかどうかは定かではないが、確かにあの人は私の事を呼ぶ時、たまにこう呼んでいたんだ。
名前が無いからそう呼んでいたのだろうか…それともそういう名前だったのだろうか。
そんな可能性は普通に考えて無いだろう。
あるとすればただ一つ。
『お兄さ…ん、は私に、いい子にしてたら居場所をくれるの。褒めてくれるし、いい子にしてる時は優しくしてくれて………可愛い俺の妹だって。いい子に出来たらね、たまに服なんかも見繕ってきて着せてくれたりして「ちょっと待て」…?』
「たまに着せてくれてって…蝶、元々の家族の元で服が無かったのか?」
『おっきい、体が全部隠れちゃうくらいのシンプルなのなら。…結局ほとんど意味なかったけど』
「…続けてくれ」
『………最初、初めて会ったのは多分五歳の時。私が勝手に一人で言葉を理解し始めた頃に私の隔離小屋に出入りするようになって、それで…最初は痛い事しかされなかったけど、ちょっと間したらすぐにね?いい子にしてたら可愛がってくれるって言い始めたの』
歳は?と聞かれて、知らないと答えればそれにも目を丸くされた。
ただ、相手が小さな子供でなかったことだけは確かだ。
少なくとも高校生…それか大学生か、成人したてというような歳。
そんな人が私の元へやって来て可愛がる、と言った時、私は何も迷わずにどうすればいいですかと聞いたのだ。
そうすれば兄はいい子だねと言ってくれ、それから変な生活が始まった。