第15章 大切な人
「……どこか怪我は?強く打ったところは」
『!…な、いです』
「ならいい…………お前って呼ばれんのが嫌なら、嘘だと思ってもちゃんと受け入れろ。…お前の名前は白石 蝶、最初の名付け親のいた世界には今は帰れなくなっていて…」
『!!そ、うだ…中也さんが……ってあれ、私何を忘れて…あれ……っ?中也さんが付けてくれ…………っ!!ごめ「もういいそれは。怒ってねえよ…気が動転しすぎて混乱してるだけだろ、落ち着いてからゆっくりでいい」…捨、てない……?』
「……捨てない。蝶が嫌っつっても俺は離してやらない…が、怖がってる時はちゃんと距離は取る。これも、落ち着いたらでいい…………じゃあまた後でな」
首領が立つのと一緒に立って医務室から出る中也さん。
私、なんて事を…
追いかけなくちゃって思った。
だけど、行くのが怖かった。
いい子じゃなくてもいいってあの人は言った。
けれど、悪い子で居場所も何も無かった私は…唯一存在を認められていい子になれる瞬間が無かったわけでは無いのである。
私なら何も抵抗しないから。
____したら痛いのがくるだけだから。怖いのがくるだけだから。
私なら誰にも言わないから。
____言える相手がいないから。口を開いちゃだめだから。
私がいい子だと認められた瞬間。
それは私を満たしてくれる魔法の言葉だった。
その言葉に何よりも救われていた。
だけど、している事は、今考えてみれば全然綺麗な事でもなんでもなかった。
中也さんはきっと知らない…ううん、きっとまだ忘れたままでいてくれている。
そして知られたら、こういう関係性になってしまっている以上、私は確実に今のままではいられない。
だから能力を使って操作した。
こういう、私の汚い部分が見えないように。
私の綺麗なところが見えないように。
中也さんは知らない、どうして私がこんなにも触れられるのに弱いのか。
中也さんは知らない。
なんで私が変に知識を持っていたり持っていなかったりしたのか。
中也さんは知らない、なぜ私が暗いところが怖いのか…愛を感じていないと、何をするにしても恐ろしいのか。
答えはとっても単純で、綺麗にまとまる汚いもの。
中也さんは私が話した事を覚えてはいないのだ。
きっとあの頃は中也さんも子供だっただけで…今思い出されたら確実に理解されてしまう。
思い出さないで