第15章 大切な人
「勿論、ただ少し時間はかか「お前が来て欲しいんならあいつは来る。お前に痛ぇ事もしねえし、お前の事を悪いとも、“気味が悪いとも”思わねえ。首領も言ってたが、願うのも意思を持つのも悪い事じゃない…ただ、それを押し殺すのはあまり俺は好きじゃない」な、中原君?」
『……好きじゃない…?悪いと何が違う…んですか?』
「さっき強く当たっちまったのを謝っておこうと思ってな…悪かった。お前は何も悪い事はしちゃいない、それだけは分かっててくれ………じゃあ首領、俺から連絡しときますんで」
『……私の事、お前って呼ばないで…下さい………』
「!…なんて呼んでほしい?」
中也さんの唐突な問いにえ、と声が漏れる。
ついつい口走ってしまった言葉に今更ながら後悔することになった。
どうしよう、何だっけ。
なんて呼ばれたら嬉しいんだっけ。
おかしいな、名前…私にだって…………
『…………無、い…そうだ、無かったんだ。だからてめえとかお前とか…』
「蝶…?」
『……ち、よ?…蝶ってだあれ?』
「「な…ッ!!?」」
先程からよく聞くその単語が何なのか…明らかに誰かの名前である事は確かである。
だけれど私にはよく分からない。
「き、君、自分の名前は!?覚えてはいないのかい!?」
『な、前って…お母さん……?付けてくれたの?』
「………父親じゃなかったか。付けてもらってたっつってたろ」
『へ…あ……そ、っか、だから今私生きて………_______!そうだ、そしたら迷惑かけずに済……ッ!?あ、れ!?……あ……な、何で!?何で!!?』
左手で扉を創ろうとするのに、蝶がバラけて創れない。
仕方が無いので集中力を込めて反発し合う白色の蝶達を無理矢理壁で固定しつつくっつけていき、扉の形を形成する。
そうだ、あった。
私にも、ちゃんと居場所が。
痛いものも怖いものもない居場所がちゃんとある。
なんとか繋ぎ合わせて完成した、今すぐにでも壊れてしまいそうな白い扉。
そのドアノブに手を触れるとビリッと痛みが走るのだけれど構ってなんかいられない。
これでいい、これで___
扉を開いた瞬間だった。
『!!?………っあ…ッッ!!!』
「!蝶!!!」
扉の向こうは真っ暗な渦に包まれていて、そこから無理矢理跳ね返すように扉の奥から弾き飛ばされたのだ。
『…んで、……帰れな…っ?』